第85話 パルフェ(前編)

 ミッコでーす。

今日は二人と遊びに来ましたー!


「──ぁ?」


「ええ、シロクロさんってお名前からですって」


「カフェなんでしょ? フランス語とか英語の洒落た感じにしないんだねー」


「確かにそうね。けれど読めないよりはいいかなって思うわ。ミッコちゃんはフランス語すぐに読める?」


「読めませんけどー」


「私も。それとお名前だけじゃなくてちゃんと理由もあってね──色んな人で彩るお店、にしたいからだそうよ」


 その、ものくろ屋さん、というお店の中はレトロで、ビビットな色の綺麗なインテリアがいっぱいだそうで。

それなのにモノクロ、でも……あーっ、やっばい! 超良い!


「シウの字、採用されたらそのお店で奢ったげる」


 あたしは、にっ、と笑いながら女子に言うと──。


「──さぁて、何奢ってもらおうかしら」


 俄然やる気になったようで。

十分じゅうぶんやる気満々のくせによく言うよ、ずっとご機嫌じゃん。

ライーンでも、今も。


「──……で、いつまで選ぶんすかー?」


 逆にこいつ──クサカはちょっと不機嫌な顔を見せている。

疲れた顔、ともいう。


 あたし達は今日、買い物と買い物と買い物をしていて、今はアクセサリーを選んでいるんだけれど、なかなかいいのが決まらなくて、あたしと女子であれやこれやと選んでいるところだ。

新しいピアスが欲しいのだ。


「ミッコちゃん、これは?」


「ん? んー……どう?」


 耳に合わせて当ててみる。


「んー……」


「さっきと同じだって……お──」


 あたしは男子をじろっ、と睨む。


「──はい、同じじゃないっすね。はい、待ちまーす……」


 あれ? 前のクサカならデリカシーないのをフル発揮してくるのに。


「あっ、これは? シンプルだけれど学校でもつけてていいかもしれないわ」


 と、女子は男子を無視して選んだピアスを見せてきた。


 あたしの学校はピアスは違反じゃないし、授業が終われば化粧もおっけーだ。

スタッドタイプの小さな四角の石が静かに光っている。

深い青色がすごく綺麗。


「……あたしの好きな色、覚えてたんだ」


「当然。見て見て、光に当てると黄色の線」


 小さな石なのでほんの少しだけれど、一瞬だけあたしにも見えた。


「おー……アイオライト?」


 この石はそういう名前で、自分らしさを見つける、っていう意味があると説明書きされてあった。


 へー……。


「地味?」


「ううん、良い色。形も好き。ごちゃごちゃしてるのしか持ってなかったからある意味新鮮」


 初めてつけたピアスを思い出す。

痛かった。

痛くて、でも、って我慢してた。

今はもう、違う。


 これにするー、と言いつつ、あたしは他のもまだ見ている。

目移りしてしまうのは女の子特有の何かかもしれない。


「シウはこういうのつけないの?」


「そうね、特には」


「ふーん。こういうの、シウっぽいのに」


 ドロップみたいな石が揺れるイヤリングを見ていたら、美味しそう、なんて返ってきた。

色気より食い気旺盛。

淡いピンク色が似合いそうだ。


 今日のシウも化粧っ気ないもんなー……色々いじって飾ってみたいなー……。


「ミッコちゃん?」


 ま、いつかでいーや。


「そろそろ移動しないとクサカ君が死んじゃいそう」


 と、女子が指差す方を見ると、男子はあたし達が買ったものの紙袋を両肩に下げて項垂れていた。


「ありゃ、しょーがない、んじゃこれ買ってくるねー」


「うん」


 レジに向かう途中で振り向くと、女子は男子の方へ行って何か喋っていた。

並ぶ二人は何ていうか──。


 ──……お似合いだなぁ。


 にやっ、と笑った自分に気づいて、はっ、とした。


 なーんだぁ……あたし、ちゃんと消化してんじゃん。

お仕舞に出来てんじゃん。


 好きだった奴のを応援してるなんて、さ。


 あたしはさっき見ていたところに戻って、ドロップみたいなイヤリングを手に取った。

まずは一粒、二つ部。

やっぱり似合うのにもったいないから、お礼と──餞別?


 ごちゃごちゃめんどい! シウにプレゼント! とあたしは新しい自分で、微笑んだ。

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