第67話 マシュマロ(前編)

「──ぼーっとしてるわね」


 放課後の教室で、机を一つ挟んだ左の席に座る女子が言った。

廊下側の窓際で、自分の席でお互い横座りしている。


「そういうお前も……行儀悪いな」


「クサカ君が言っちゃう? 同じ事してるのに」


 だな、と俺も足の指をぐ、ぱ、と開いてみせる。


 今日は最終授業が体育だった。

俺は汗掻いたし、と靴下を脱いでいて、女子は替えの靴下を履く前の素足のままだ。

隣の席の椅子を借りて、お互い足を置いて伸ばしている。


「大きな行事の後って、だれる、わね」


「んだなー……あっという間に日常」


 もとい、授業に部活、いつもの放課後。


 ……なぁんでいつもみたいに話せるかね。

つって俺も合わせて──って、また逃げたよ、俺。

えっと……まぁ、いつもの、やつ。


「──ん、当たりだった」


「ん?」


「マシュマロ」


 女子はもう食べてしまった感想を口にする。

白いのとピンクのと、二色ある。

多分ピンクのやつを食べていたような。

何の変哲もない、むにむに、としたマシュマロだったけれど、どういう事だろう。


「中にチョコが入ってたの」


「そういうやつ? 俺の入ってなかったぞ」


「運が良いみたい、私」


 じゃあ俺は運が悪いってか?


 ちょっとドヤ顔の女子に負けたくなくて、久しぶりの箸をうろうろさせる。


「迷い箸は行儀悪いわよ」


 失敬、確かに。


 最近の俺は迷い、まくり。


 俺は白いマシュマロを一つ、食べた。

むに、むしゃ、外れ。

美味いは当たり外れなし。


 俺は膝の上にある週刊漫画雑誌を捲る。

女子も同じように漫画本を読んでいた。


「……ど?」


「良い」


 よい、ってどこのお偉いさんだよ、って感じのすぐの返事に笑ってしまった。


 その漫画本は映画に行った時に約束していて、文化祭の準備も始まってなかなか機会がなかったやつで、やっと今日貸せた。

それはそれは、楽しんでくれてるようで夢中になって読んでいる。

一方で俺は、あまり集中出来ていない。


 やっぱなんか、はっきり……させたい、っていうか。

んでも言えない、というか。

言ったら駄目、なような。

っていうか──。


 ──俺、ふられては、ないんだよ、な?


 ミズタニ部長にちょびっとだけ相談? っつーか、言ってみたりしたけれど、何言ってるかよくわかんなかったし。


 はぁ、と薄くため息を吐いて俺は週刊漫画の続きを捲る。

先週から待っていて、やっと読める。

今週を楽しみに待ってたのに、集中出来ねぇとか。


 ──じゃあ、待ってればぁ?


 ……くっそ、ミズタニ先輩やっぱわかんねー。

不思議系ってわけでもないんだけれど、頭良い感じに見えるんだけれどたまに阿保っぽい事するし、逆らえさせないオーラ的なもんまとってるけれど──あ、わかった。

クラキに似てんだ……。


「──負のオーラ的なものがうねうねしてるわね」


「ふ?」


 負? うねうね?


「集中力はどこへやら」


 無意識に体が揺れていたようだ。


「すまん」


「ちょっと気になっただけよ。他に何か気になる事でも?」


 ……いやいやいやいや、おいおいおいおい。

お前がそれ言うか? これでも結構我慢してんだけど?


 俺は横目で、じと、と見てやると、女子は俺の方に体を向けて、頬杖をついて、やや顎を上げ気味に、見てきた。

見つめて、きた。


 ……くそっ! わかってやってやがる!


 女子は頬杖をやめて迷う事なくマシュマロを一つ、箸で挟んで食べた。

白いのを。


「──また当たり。チョコ美味し」


「……お前ばっか、ずりぃ」


 ずるい。

ずるく、ない。

ずる、してない。


 ……クラキは迷ってないんだよな……だって、ちゃんと言って、教えてくれた。

してほしい事……ぬぅん。



「へ?」


「漫画」


 ああ……ああ、そっち。

ん? どっち?


 俺もマシュマロを一つ食べる。

迷い箸らないで、なんか、これ、白いの。


「……何も入ってない!」


「んふっ、もうちょっと待ったら当たるかもね?」

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