第6話 変わり行く町並み

「しまったの、ヒポを縮めるのを早まったわ……」


 昔住んでいた我が家から、王都サラームに向けわっちは移動しておる。


 魔法の箒が健在なら、ひとっ跳びじゃったが、残念ながら使い物にならなかった。

 食料の大半も、置いてくることになったしの。


 それよりもまさか、徒歩移動になるとは……。


「ヒポもヒポじゃ、巨大化の丸薬を拗ねて食べたがらん!」


 よっぽど不味かったんじゃろうな?

 食べた当人は、あれから拗ねてふて寝を決め込んでおる。

 あの後、与えた餌も食べるに警戒しよるからの……。


「ふぅ、やっとついたわ。こんな歩かされるのも久方ぶりじゃったのー」


 遠目には、煉瓦仕立ての高い外壁が見えた。

 身体強化、植物操作の魔術を多用しながらとは言え丸三日、随分掛かってしもうたわ……。


「さて、ここからが正念場じゃな。入り口には門番が数人……。魔物が蔓延はびこ昨今さっこん、当然と言えば当然じゃが。まあ一先ず、接触をしてみるかの?」


 わっちは草むらから飛び出し、門番に向かい歩き出した──。


「き、君、何をしてるんだ! 危ないじゃないか!」


 門番のやつ。何やら血相を変え何か叫んでおるの……。


「もしかして、わっちの事かの?」


 自身を指し、門番に問いかけてみたのじゃが。


「君以外に誰がいるって言うんだ、外には魔物が彷徨うろついてるんだぞ、最近では大型の魔物が現れたって報告も受けている、どうやって外に出たかは知らないが絶対に一人歩きをしないこと!」


 ふむ、どうやらこの男、善意から言っておるみたいじゃな……。

 ここは一つ、子供らしく振る舞ってみるかの?


 わっちは満面の笑みで「はーい、ごめんなさい」っと、こどもらしく大きく頭を下げ謝罪をのべた。


「良いから、さっさと入る!」


 叱られてしまったの。

 わっちの愛くるしい笑顔でもだめじゃったか。


 結局わっちは、大人しく門番の横を通過する事に……。


「ふむ、素通りじゃな。子供の姿とは言え些か平和ボケが過ぎるのでは無いか?」


 罠か何かの可能性も疑ったが、何事もなく普通に入れてしまったの。

 まったく、杜撰ずさんな管理じゃ。


 魔物が中に入らぬよう立っておるのだろうが、本来それだけではあるまい。

 魔物などより、人間の方がよっぽど危険じゃと言うのに……。


「まぁ、大きなトラブルもなく中には入れた訳じゃし、よしとするかの」


 周囲を見渡すと、多くの人々が賑わい町中を往来している。

 当時とは比較にならないほど、人々は笑顔でみち溢れていた。


「この国は、今や平和なのじゃな……」


 多くの死の元に築かれた平和……。

 穏やかな日々を歩むのは、本来自己を犠牲にして作り出した者達であるべきなのじゃが。

 

 そんな事を考えていると、首元がむず痒く──。


「くっくっく、こら止めんかヒポ、勝手に出て来るでない! わ、わっちは首が弱いのじゃ」


 バックの中で眠ってたと思っていたヒポは、いつしか該当の中に忍び込み首元をつついていたのだ。


 わっちは悪戯坊主を掴み、手の中に隠す。


「小さいとは言え不可視ではない。見つかったらどうする気なのじゃ」


 手の隙間から覗くヒポは、何かを訴えかけている気がした。


「大丈夫じゃ、少々物思いにふけだけじゃからの」


 思うことは色々あるが、それでもわっちは気丈に振る舞い歩き出す。

 今を生きねばな、この体の元の持ち主にも悪いからの。

 

「さて、気持ちも切り替えた! しかしどうやって調べるべきか。いや、それより寝床と収入源確保が先かの?」


 ほぼ無計画に来てしまったからの、住み込みで働けるところでもあればよいのじゃが。


 わっちはしばらく町を散策する事にした。

 しかし中々、都合のよい話はないものじゃな。


 どれだけ歩き、尋ねても、条件に見合う宿泊先兼、働き先は見つからなかった。

 困り果てながらも歩いていると、わっちの足が止まる。


「ここは見たことがあるの、確かこの先は……」


 見つめる先には、大人でもそうそう覗き込めない壁が立っている。

 わっちは飛び付き、その壁をよじ登った──。


「──やっぱり魔道騎士団の修練場じゃな。ここは昔と、さほど変わっておらんわ」


 風景は相変わらず殺風景。

 だだ無駄に広い広場に、少量のトレーニング器具と、的のような物が立っている。


 しかし人は別じゃった。

 だらだらとランニングをしている者、訓練中にも関わらずペラペラと立ち話をしている者が目立つ。


「なっ!! これは何て事じゃ……。平和ボケしているとは言え、これはいくらなんでもひどすぎる」


 魔道騎士といえば、国の最強戦力であり、国民の平和を守ることを義務づけられている。

 憧れの職種ナンバーワン。子供達の目標が、これじゃあかんの。


 わっちは壁の上に座り、頭を悩ませた。


「そうじゃ、少し強引じゃが良い手を思い浮かんじゃぞ」


 魔道騎士団は実力主義。

 上手く行けば、仕事も住む場所も手に入るやもしれぬな。

 なるべく関わりたくは無かったが、ここなら調べものもはかどる──。


 髪をほどくと、長く白い髪をナイフで切りそれを風に飛ばす。


「くっく、少しばかり楽しくなりそうじゃ」


 そしてそのまま、わっちは壁の反対へと降り立ったのじゃった。


 

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