第4話 昔の家1
生け贄に捧げられ、洞窟から脱出し早数日が経ち。
わっちは未だヒポに股がり、王都サラームへ向かいながら優雅な空の散歩を楽しんでいる所じゃ。
「これはまた見事なもんじゃ。この景色、四十や五十年どころじゃないの……」
空から見下ろす景色は、わっちが知っているものとは雲泥の差じゃった。
当時は戦争の後遺症で、一面地肌しか見えなかったのじゃが……。
今では草木が青々と生い茂っており、緑で埋め尽くされておる。
「これだけの緑が芽吹き育つには優に百年以上は立っておる……。あの争い以降は、血生臭い争いは無かったんじゃの」
この景色を見て、心から胸を撫で下ろした。
前世でわっちが命を失った、その事に少しでも意味があった。そう思えたのじゃ。
「お、見えてきおったな」
巨大な森を越えた先には、一際立派な人工物が顔を覗かせた。
大きな城を中心に、町並みが広がりそれを囲むようにこれまた巨大な
壁の上は見晴台になっており、数名の兵が警備を行っておるようじゃが。
「お、兵がこっちに気付きおったぞ。驚いとる驚いとる」
わっちらを確認後、慌ただしく動き出す兵達。
その一人が、何やら
「これは、雲行きが怪しいの……」
兵達は続々と増え、横並びに立ち、こちらに向かい、弓を構え始め──。
「──ヒポ高度をあげるのじゃ、急げ!!」
ヒポに指示を出したとほぼ同時に、兵達からは矢が放たれる。
わっちも
高度を上げられ、届かないと判断したのじゃろう。兵達からの攻撃は次第に止む事となったのじゃが。
「いやー危なかったわ、しかしこれは参ったの。ヒポ、おぬしが一緒では町には入れそうにないな」
兵達は、未だにこちらを警戒しておる……。
流石にこのまま空からお邪魔するわけにも行くまい。
そんな事を考えていると、ヒポの頭が下がっていることに気付いた。
どうやら先程のわっちの言葉を聞き、落ち込んでしまったようじゃ。
「すまぬ、別に責めている訳ではない。ぬしが警戒するに値する、立派な姿をなしている証拠じゃ。自信を持つが良い」
慰めの言葉に、プイッとそっぽを向くヒポ。
何と言うか、誠に可愛らしいリアクションをしよる。
「しかしまぁ、どうしたら良いかの……」
このまま、ヒポと共に中にはいるわけにも行くまい。
かといってその辺りに置いてきぼりは、危険じゃからな……。主に、こやつに遭遇した人が、じゃが。
「そうじゃ! わっちが住んでた家が残っておれば、あの薬が残ってたやもしれぬの」
それさえあれば、もしかしたら万事解決やもしれぬな。
それに当時住んでた我が家が、どうなったかも興味がある。
「少し離れておるが、もう一頑張りしてもらうぞ。ヒポ、あっちじゃ!」
指示を出すと、ヒポは一声上げ方向転換を開始した。
わっちらは余計ないざこざ回避のため、ひとまず目的地を変更し、進路を北へと変更したのじゃった。
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