日記をめくる
吉沢は電気も付けずにリビングで日記代わりの大学ノートを開いている。
11/1
燈子が死んだ。よく分からない。でも警察の人は死んだと言った。お気の毒にと言われた。だから多分、燈子はもうこの世にはいないんだろう。悲しいのかすら分からない。ただ自宅のソファーに一人で座ってその辺を眺めている。どこにも燈子の姿はない。仕事からの帰り車を運転していると携帯が鳴った。登録していない番号だった。ああ、いやだ思い出したくない。
10/31
木曜日が終わった。明日が終われば週末だ。30代というのは若手と中年の間のようなもので、なんとなくやり辛い感じがする。でも、そんなことは言ってられない。しっかり頑張らないと。燈子は家事をして俺を待ってくれているんだから。その分、俺は外で働く。今日の鯖の塩焼きはおいしかった。燈子がつくる料理はどれも優しい味がする。そういえば、おいしいかったって言ったっけ。
10/30
ちょっと嫌なことがあった。仕様書に誤りがあったというのだ。確かにその箇所は俺も気になってたけど、だから先方にあらかじめ確認を取った。それなのに、こう後から覆されたらやってられない。水掛け論になるから、まあまあ怒りをおさめてと部長に言われたから引き下がったものの、どこか納得がいってない。でも、こういう空気は伝染するから家には持ち帰るまい、と思ったのだけれど燈子に見破られてしまった。結局、今日は俺が話を聞いてもらった。
10/29
家に帰ると燈子がめずらしくソファーにだらっと寄りかかってテレビを見ていた。別に体調が悪いわけじゃないというから一安心だが、何かあったのかと聞いてみるとお
10/28
今日は燈子の誕生日。だからケーキを買って帰ろうと思っていたのだけど、こういう日に限って残業でケーキ屋はもう閉まっていた。そのことを詫びると燈子は構わないよと言ってくれたけど、やっぱり少し寂しそうだった。30代の仲間入りだと茶化すと頬を膨らませていた。5才下というのも手伝ってこういうときの燈子は格別かわいい。かわいい顔を見るためにも明日はちゃんとケーキを買ってこよう。
10/27
のんびりとした朝を過ごしたあと二人で映画を見に行った。燈子が気になっていたという海外のメロドラマだった。他の客は俺よりもう少し若くてちょっと気恥ずかしかったけれど燈子が楽しそうだったから関係ない。そのあと冬物の服を見た。晩ご飯はちょっといい焼肉を食べた。前夜祭だと言って盛り上がった。帰りの運転がある俺に遠慮を見せつつも、お言葉に甘えてと言って生ジョッキをおいしそうに飲んでいた。
涙が、ページに、しみをつくっていく。
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