「おさんぽしてると」
ねぇ、ママ、これ読んでー。幼稚園年少さんの空人が私に持ってきた。あまり見慣れない本だ。この前の図書館でこんなの、借りてきたっけ。
はやくー。ズボンを引っ張られる。
うん、ママ読むよ。そらくん、もう寝る時間だから、お布団でいっしょに読もうね。
はーい。そう言って空人は本を床に置きっぱなしにして、寝室へ走っていった。夫に、そういうことだから、行ってくると言いながら中身を拾い読みする。どうやら男の子が一人で外を歩きながら植物や動物に目を向けるお話らしい。
はやくー。大きな声で呼んでいる。あの元気さだと、中々眠りにはつきそうにない。
いま行くー。絵本を抱えて部屋に向かう。
じゃあ、読むね。
うん。
「おさんぽしてると」
ゆうくんは5才の男の子。ようちえんバスでおうちの前まで帰って来たけど、ママがいません。
先生がママはすぐ来るから、待っててね、ゆうくんに言いました。それでも、ゆうくんは待ちきれなくなって一人で歩きだしてしまったのでした。
そらくんは、一人でおそと歩いちゃだめだよ。待っててねって言われたら、ちゃんと待っててね。ママ時間通りにお迎えするけど。
うん、分かった。
じゃあ、お話に戻るね。
ゆうくんはお家の近くの公園に行くことにしました。信号が赤になったので止まって待ちます。青になったから元気よく手を上げて、ゆうくんはわたっています。
おや、水たまりがあります。6月だから、この頃よく雨が降ります。
ぴちゃっぴちゃっ。ゆうくんはおくつをはいたまま、水たまりで遊んでいます。
その横にはむらさき色とピンク色のあじさいが咲いています。すっごいきれい、ゆうくんは思わず見とれています。
お花より少し下側には緑色の葉っぱがあります。しずくがきらりと光っています。こっちもとってもきれいです。
お空には虹がかかっています。全部で七色。ゆうくんは一生懸命、探しています。
赤、オレンジ、黄色、緑色、青、藍色、紫色。どうやら全部見つけられたみたいです。
公園の真ん中ぐらいまで来たゆうくんは一休み。ベンチに座ります。屋根があるから雨では濡れてなかったみたい。
ゆうくんは地面を歩いているかたつむりを見つけました。ゆうくんは立ち上がって近づいていきます。ぬめっとしている体にはさわってみたいけど、怖くてさわれません。
そこの男の子、ぼくをさわってみたいの?
うん。
じゃあ、いいよ。
かたつむりが止まってくれました。ゆうくんはおそるおそる、手を伸ばします。どうやら、ひんやりしたみたいです。
つめたいね。
そう?雨の中を歩いてたからかな?
そっかぁ、雨が降ってるのにすごいね。
ごはんがないと生きていけないからね。おいしそうな葉っぱを見つけたんだ。
その返事をきいて、ゆうくんは立ち上がりました。自分も一人でちゃんとお家まで帰ろうと決めたのです。一歩ふみだしました。
いたいよぉ、いたいぃぃぃ。
ゆうくんの足元では一匹のアリが踏みつぶされて小さな声で叫んでいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます