神様、私の心から

 神様、お願いします。私の心から悲しみを取り去ってください。

 ―—分かった。このやじろべえをやる。受け取れ。

 は、はい。

 ―—その片腕を折れ。しなっている向きと逆向きに力を加えればすぐ折れるはずだ。

 えーっと。


 ポキッ


 折れました。

 ――よろしい。じゃあ、あとは私がやっておく。もうお前の心から悲しみは無いから安心しなさい。

 そうなんですか。よく分からないけど、ありがとうございます。


 どうやら、私の心からは悲しみがなくなったらしい。本当だろうか。まあ、そのお祝いにコンビニにプリンでも買いに行こう。そう思い立ってドアを開けると雨が急に降りだした。それでも何も思わなかった。いつもだったら、雨いやだな、と思うのに。もしかして、こういう気持ちも悲しさと一緒くたにして取り除いてくれたのだろうか。ということは、これで気分が落ち込むことはない。そのまま傘を取って鍵をかけて階段を下りる。歩いて5分くらいのコンビニを目指す。傘と出会った水滴が音を奏でていく。いつもは引っかかる信号が二連続で青だったせいか思いの外、早くついた。

 まっすぐ、スイーツ売り場に行く。仕事終わりのOLが寄るには少し早い時間帯だからか、まだ全種類そろっている。前、おいしかったのはこれ。定番はこれ。こっちは期間限定マンゴー味。どれにしようか、と数分悩んだ結果、昔ながらのプリンにした。ミルクプリンも捨てがたかったけど。店員さんに渡すと、スプーンを何も言わずにつけてくれた。おまけにおつりは77円。好きなアニメのコラボがやっていたから2つ買えばクリアファイルがもらえるところだったみたい。それでも不思議と悔しい、損をした、みたいな感覚にはならなかった。これも神様のおかげだろうか。

 店を出ると、そこには虹のかかった青空があった。駐車場でアイスを食べている大学生が写真を撮っていたのでつられて撮った。彼氏に送ろうと思ったがいい文面が思い浮かばなかったのでやめた。

 帰りも信号で止まることは一度もなく家についた。雨が少し乾いた傘を玄関に立てかけて、手を洗い、レジ袋からプリンを出す。窓を開けると日差しがいっぱい入ってきた。冷たいうちに食べよう。口いっぱいに広がる甘さ。そうそうプリンとはこういう味だった。それでも何か足りない気がする。でも、メーカーも商品名もキャッチコピーも同じだから何も変わっていないはずなのだが。それでもがっかりしなかったのはやはり神様のおかげだろう。食べ終わったカップのふちにコンビニでもらった小さなスプーンを載せてバランスをとる、というどうでもいいチャレンジをついついしてしまう。子どものときからの癖だ。カップの内側と外側にかぶさる部分のバランスをとらないとうまく行かないのだ。

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