急に否定されなくて怖い
無名作家の僕が大賞を獲った、らしい。10年近く書いてきて、最近小さめの出版社で出した作品が獲った、らしい。快挙ですよ!と編集者が電話をくれたが、全く実感が湧かない。それでも、テレビ、雑誌、新聞、ネットニュース、そういった至る所に自分の名前が出ているのを見て本当のことなんだな、と思った。思わざるを得ない状況であった。次々と、インタビューが決まりました。受賞式の詳細を連絡いたします。弊社の雑誌に寄稿をして頂けないでしょうか、なんていう電話やら何やらが来た。そういった表舞台へ出ていくと名刺なんかがもらえる。僕は持っていないのに。ずっと住んでいる古いアパートの机の上には名刺がどんどん山を成していった。
今までと地続きだとは決して思えない日々が続いた。いつも自分が見ていた朝の番組で自分の本が紹介されている。そんな事実に驚きながらも、やはり、うれしかった。はじめは信じられなかったけど、段々と本当なのだろうと思えてきた。両親にいい知らせができたことがうれしかったし、数少ない旧知の友人が久しぶりに連絡をくれたときは本当にうれしかった。インタビューでは、通り一遍のことから私生活まで聞かれた。どう答えていいかよく分からなかったが、ありのままを答えると好意的に受け止めてくれたのか、なるほど、と言ってくれた。サクセスストーリーを集めた書籍をつくっているという人からも色々と話を訊かれた。どんな話をしてもうなずきながら聞いてくれた。いざ、テレビに出ると自分のこと以外の話題を振られることもある。それでも、自分なりに答えていると、上手にフォローしてくれた。フォローといえば細々と続けていたSNSのフォロワーが急増した。今までと同じことを呟いているだけなのに、深読みをされたりもした。
ある日、ニュースで音楽シーンのニューヒーローだというバンドが取り上げられていた。気づいてしまった。こうやって自分もやっぱり消費され、消耗していくのだろう、と。まだ今は仕事が減っていってはいないが、いずれ同じことだろう。そう考えだすと、今までの色んな人の言葉も信じられなくなってきた。楽しそうに話を訊いてくれた人たち、好意的な感想をくれた人たち。新規のフォロワーたち。この人たちの態度もいつか冷たくなるのだろう。段々と、怖くなってきた。進捗どうですか、先生。と新連載の決まった雑誌の担当から電話がかかってきた。慌てて、いま決まっている案を話すと、さすがです。と言われた。今までだったら、どこも見向きをしてくれなかったのに。もはや僕を疑わない人たち。肯定しかしない人たち。自分にうなずいてくれる人たち。怖い。やっぱり、こんなのは間違いなんだ。怖い。どうしようか。少し考えて、こういうときはネットだ、と思い出した。スマホを持ち上げてしゃべる。
『過大評価 対処方法』
ピコン「すみません、よく分かりません。」
最高の答えが返ってきた。
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