NPCが魔王を倒して何が悪い! Out of Circle : Stage2
unu
第1話:プロローグ 新たな都市国家像
朝、爽やかな太陽は都市の美しい建造物を照らし、2階から上の窓辺に飾られた長い夜を耐えた花は、葉から垂れた朝露がその花弁に生気をもたらしていた。
朝の空気を部屋に入れるべく開いていたその窓も、レースのカーテンが風に煽られてゆっくりと揺れる。
朝、まだ朝露が湿る石畳の路上に、生える雑草は人に踏まれる心配がない上の階に飾られた者達を羨んでいた。
朝、いつもならこの時間は人通りが少なく静かなのに、今日はいつもと違い早々から賑わっている。
その朝、遠くから聞こえる声はだんだんと大きくなっていった。
「魔王討伐イベント間もなく開催です!」
そう叫びながら王都の広報官が大通りでビラを配りながら歩く。
近隣国家からも冒険者が集まり盛大に開催されるイベントだ。
まだ朝、早いのに、大通りにはいろんな人が溢れている。
イベントの準備を確認する人。
イベントの勝者を予想する人。
イベントの出店を準備する人。
ご近所さん達も集まり談笑を交わし。今回の祭りの行く末を占っていた。
「あの、魔王討伐イベントが今年の王都140周年祭として帰ってきました!」
そう叫ぶ広報官に魔王のお面をかぶった子供達が、自分たちの体程の大きさの手作りハリボテ剣を振る。
広報官の腰に下げている、小さな黒いウールの毛玉チャームにその剣があたる。
子供達はそれが合図だと知って、イベントで配布しているお菓子をせがむ。
広報官は少し怯みながら、ビラと一緒に持っていたポーチに入れているお菓子を手際よく子供達に渡した。
子供達は、お面をかぶっているので表情はよくわからない。けど、離れて行く際の足取りは喜んでいたようだ。
そして子供達は、他のエリアで配布しているお菓子を貰いに駆け出した。
広報官はその様子を見て、まぁ今日はいい日だなと実感していた。そして再びイベントのビラを配布し、イベントの告知を叫んだ。
いつもは夜遅くまで飲んでいる冒険者も今日のイベントに併せて、大好きな酒を控えて朝から準備を整えていた。
幾人かの猛者が眠いまなこを擦りながら気合いを入れ、幾人かの知識人は数人集まって攻略方法をおさらいしていた。
だが、そんな賑わいの表通りは真逆に、中心部から少し離れた一つの小道に入ると、急に表通りの声が遠くなり、不安な程寂しくなる。
この離れの小道は、ここらで有名な宿と食事を提供する居酒屋カルブヒルがあり、ほんのひと時ではあったが、一世を風靡した武器屋もあった。
武器屋の普段はビギナー向けの装備を取り揃え、初心者に優しく取り扱いの指導をしてくれるフレンドリーな、武器屋だった。
その武器屋は今回のイベントが起きる切っ掛けであり、その切っ掛けで冒険者で賑わっていたのだが、それもほんの一瞬で沈静化して、すぐに廃れてしまった。
武器屋の扉は鍵はかかったまま半開きで中の商品は一切無くなり、商品棚も荒らした後がある。
ぼろぼろの状態。
入り口だけ、この都市の衛生課と向かいの店の店主が街の景観と風営に影響が出るとして、黄色い封印テープを貼り、立ち入りを禁止した。
『魔王討伐』
それは何年にも渡り、自らを研鑽し、強靭な肉体を作り、知識を蓄え、装備の素材を集め製作し、何度も挑みつつも、誰一人倒すことができなかった偉業。
プレイヤーである冒険者が最後の栄誉と名声を得られるチャンスであった。
だが、それは儚くも散っていった夢。
ノンプレイヤーキャラクター、通称NPCが魔王を倒してしまったのだった。
そう、それがこの小道に店を構えている店主が犯した失態。
それを長年、この世界で遊んでいた冒険者が許す事はできなかった。
運営側にひっきりなしに問い合わせが来たので、運営側もガス抜きと冒険者フレンドリーのアピールの為に今回のイベントを開いた。
始めた当初は各冒険者およびユーザーは、不満を漏らしていたが、破格な報酬を掲示されたので、不満はあっけなく鎮静化された。
内在するバグは置き去りのまま・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます