第25話 黄昏

 東大陸国ジペングニアの旧工業地帯は、産業黄金期の狂奔による増築と拡充により、迷宮や大樹のような混沌の様相に行き付いた場所がいくつもある。

 "キューポラ"と呼ばれるそこも、そんな"進化"を果たした工業地帯のひとつだ。

 鋳造設備が密集していることから、その呼びキューポラの名がついたそこは、黄金期の永劫稼働状態による凄まじい排煙の対処のため、その高さをみるみると上げていき、最終的には歪な鳥居を思わせる姿へと行き付いた。

 想起の要因となった中央の空洞トンネルは、無計画な建設計画による偶然の産物と言われているが、それが黄昏時のキューポラに新たな様相を与えていた。

「どうだ?お前にこれを見せたかった」

「きれいね。わたしたちが通る境界はここがいいわ」

 かつて工業地帯キューポラで働き、それを支えた老夫婦が、空魚くうぎょの上でその光景を眺めている。

 闇に包まれるキューポラ工業地帯と、空洞から差し込まれる茜色の光が絶妙にすれ違う瞬間。

 狂騒の成れの果てとなっていた工業地帯キューポラは、金色こんじきの光を放つ神域の入り口境界門の如く、神々しい姿へと変貌した。

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