short TaleS

Aruji-no

第1話 最速

 南大陸国アメリゴアバリウェート州オーツ郡にて~


「何だ?この騒ぎは?」

 老齢の石霊種ドワーフの男は、ヒトで埋め尽くされたマドマクス駅を目にし足を止めた。そこに集う誰しもが昂る気持ちを押さえきれずにいるようだった。

「なぁ、何だこの騒ぎは?」

 彼は、近くにいた爬虫亜族レプティスの男に声をかけた。

「何だ?あんたこの街のもんじゃないのか?」

「いや、ここのもんだが」

「なら知らないはずないだろ。ティーガー・チロスだよ」

「ああ。あいつがどうかしたか?」

 ティーガー・チロスとは、速豹亜種チュタスの青年で、この街オーツ出身の陸上選手だ。

「ははは。さすが地元って感じだな。ブルータ・ムルージュ。レニア州から来た」

「ラウド・アデス。あそこレニアのフルーツは絶品だ」

 握手を交わすふたり。

「光栄だな。聞いてないか?今日は、全州陸上競技大会フルスピードで優勝した彼の凱旋日だ」

「今日だったのか」

「昨日から車を飛ばしてきたが、地元民には敵わんな」

「こんな離れたとこでいいのか?」

「面倒は避けたい。ここは獣亜族ママルスばかりだからな」

「あいつのファンは皆兄弟だと聞いたがな」

「今だに理想論さ。それより聞きたいんだが」

「何をだ?」

「彼に関する噂さ。昔ここで、とんでもない特訓をしてたとかいう…」

「特訓?」

「ああ。この駅マドマクス駅から出る貨物列車と隣街まで競争してたって話だ。列車の名前が確か…」

「152形de-50。通称ウォーリアーだ」

「何だ知ってるじゃないか」

「俺と一緒で、街一番の年寄りだからな」

「だが、いまだに現役と聞くぜ」

「あいつが最初に挑んだのは、幼年部チャイルドクラスの頃だ。結果はボロ負けだった」

「そんな頃から!?」

「最初は微笑ましい光景だったさ。だが、少年部ジュニアクラスになった頃、あいつが本気で勝とうとしてる事が街中に知れ渡った」

「そこだけ聞くと、まともなやつじゃないな」

「近寄りがたい存在ではあったな。しかし、今じゃ誰もがお近づきになろうとしてる」

「俺もそのひとりだな。イカれた特訓の成果ってわけだ」

「今じゃ、機関車ウォーリアーと並走しながら運転手と雑談もできる」

「そりゃあ、さすがに盛り過ぎだろ」

 にわかに駅の方が騒ぎ始めた。

「お!遂に来たか!」

「顔を拝めるといいな」

「そう願う。ところで、あんたは何用だったんだ?」

「これから仕事でな」

 と、駅の方を向きながら言うラウド。

「タイミングが悪かったな。少し収まってから出直したらどうだ?」

「そうしよう。じゃあな兄弟。余裕があったら、是非ミラージ・ダイナーのハンバーガーを試してくれ」

「ありがとう。旨かったら、ダチに自慢しとくぜ」


 その日の夕方~


「ニュースぐらい観てると思ってさ」

「それでも連絡ぐらいしろよな」

「次はそうする」

「だが、これは凱旋当日にもやることなのか」

「ここに帰ってすることと言えば、まずはこれさ」

「ミラージ・ダイナーのハンバーガーを頬張ることじゃないのか?」

「インタビュー観てんじゃん。それは明日でもいいよ」

 疾走するティーガーは息切れることなく、ラウドとの会話を楽しんでいた。

 ちなみに、彼のすぐ横でラウドが運転している152形de-50ウォーリアーは、最高速度フルスピードに達していた。

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