探偵とケットシー
おそらく、短期決戦の腕自慢だったなら、テルルも危なかったかもしれない。
「バカな。世界最強クラスの姫が、魔力量の不足で負けるなど……む!」
天使が原形を留めないほど、ぼやけていく。王女の魔力が、本格的に尽きかけているのだ。
「たぶん、お前さんを召喚した時点で、王女様は気づいていた。自身の魔力量じゃ、三分もたねえってな」
もしかすると、呼び出した時点で魔力が尽きていた可能性もある。
「調子に乗って、煽りVなんか流すからだろ」
VTRが流れているとき、王女は「早く終わってくれないか」という表情をしていた。
「あれは父君が、娘の大活躍を披露しようと!」
それがアダになったというのに。無駄な時間を費やし、勝てる試合で負けた。シチサブローたちは、それに助けられた気がしている。
「六〇秒あれば……いや、あっても同じか」
「そうだ。それでもあと三〇秒足りねえ。もった方だった」
試合以外の時間をすべて足しても、二分五〇秒だった。持ちこたえられない。
シチサブローも、あと一分で食わせる自信もあった。
が、結果論でしかない。
「オレだって、テメエをキレさせようと必死だった。罵って、怒らせて」
そうでもしなければ、エネルギーを消費してくれない。
召喚獣は、感情の変化でも持続時間が変わる。
怒りなどで感情が高ぶっていれば、それだけ召喚士も消耗するのだ。
「どうして姫は、ワタシに黙ってそんな無茶を。負けるとわかっているなら、ワタシではなく別の魔物を呼べばいいものを!」
悔しがる天使に、シチサブローは言葉を投げかけた。
「知らねえよ。お前と勝ちたかったんだろ? オレ様によぉ」
「ワタシと、勝ちたい?」
天使をパートナーにした段階で、自分はもっと強くならないといけないと思ったのだろう。
魔力切れを悟られると、天使を困らせてしまうとでも考えたか。
それだけ、天使と王女の絆は深い。それゆえに、自身の魔力量が少ないことを王女は責めるだろう。
「おそらく、このお姫はお前とS級を目指すことをあきらめていないぜ。きっと再戦してくるだろう。もちろん、お前さんを引き連れて」
「なるほどな。来年が、楽しみだ」
天使の身体が、フッと消えた。
テルルに再度回復してもらい、王女も退場する。
『さて、召喚獣試験も、いよいよあと一人を残すのみとなりました! これまでの挑戦者で、試験合格者はゼロ! S5ランクのドラゴン肉に対し、ちびっこ召喚士はまったく歯が立たない!』
アナウンサーが、ややまったりしがちな会場を再び温めた。
とはいえ、会場内は白けきっている。「どうせ合格者なんて出ないだろう」といったムードだ。王女の試合観戦が目的だったのか、帰り出す人も。
「これは、出ねえな」
自分の依頼は、「クリア者を一人も出さない」ことだ。仕事をしているに過ぎない。かといって、ここまで不甲斐ないとは。よほど甘やかされて育ったと見える。
「いい。わたしの肉が最強というのが証明されればOK」
テルルは、勝ち誇った。
『解説の協会長、現在までの戦績を見て、コメントをお願いします!』
「たるんどる。マジメに訓練を行っていない証拠じゃ。あの若さで強い召喚獣を手懐けている手腕は認めよう。しかし、信頼関係がまるでなっておらん。じゃから、うまいエサに釣られてしまう。才能はあるかもしれん。しかし、子どもの欲望丸出しのまま! 脳が幼いままでは、自制心は保てん! お里が知れるというモノよ」
シッポ肉を切りながら、シチサブローはフンと吹き出す。
「よく言うぜ。ガキの脳を刺激しろって言ったのは、アンタだろーが」
あの男は、粋がった子どもにS級召喚士の称号を与えたくないだけだ。欲にまみれているのは、自分の方ではないのか。
最後の選手を前に、とうとう本音が出たな、とシチサブローは独り言つ。
『では、最後にフリオ・ニールセン選手、入場してください。最後の挑戦者であるフリオ選手は、なんと平民出身です!』
見るからに貧弱そうな少年が、会場入りした。純粋無垢そうな少女型召喚獣が、マスターの手を握っている。主従が逆転しているらしい。
『最後の挑戦者は、なんと最弱召喚獣の【ケットシー】です!』
召喚士たちの席から、失笑が漏れる。
対して、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。「二人ともかわいー」と、少年少女を称えている。
試合前の選手紹介によると、平民出身のフリオは、冒険者の子として育ったという。召喚士協会所属の名探偵が飼っていたケットシーを治癒魔法で助けたことで、探偵の助手に。
貴族でしか扱えないと思われていた魔物を操る力を、平民が持っている。これは他の召喚士たちからすると、脅威だった。
『ケットシーは、モンスターの中でも初級、Fランクの強さしかありません! しかしながら、FランクモンスターにしてS級の活躍を見せてくれました! フリオ選手も平民出身ながら、毎回脱落ギリギリで粘り勝ちをするという見事な奮闘振りでした。果たして、今回も奇跡が起きるのか?』
「こいつは、何か起きそうだな」
シチサブローは、一筋縄ではいかなそうだと考えている。
「うん。あのケットシー、何をしでかすかわからない」
二人が放つただならぬ気配を、テルルも感じ取ったらしい。
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