老婆(4/16 花金参加作品)

 孫娘が『魔法少女』になったらしい。


 その衝撃的な知らせを受けると共に、送られてきた空を翔けるピンクの派手な衣装姿の孫娘の写真を見た時には、トモエはびっくりして何もしていなくても痛む腰を抜かしそうになった。


「おばあちゃん、私も将来魔法少女になる!」

 目を輝かせて、ふんわりほっぺの孫娘が言ったのはいつの日だったか。まだ学校にも上がらない頃だったかもしれない。

「そうね、おばあちゃんと一緒に悪い敵を倒そうね」

 一緒にテレビを見ていた自分もまだまだ若かった。孫娘と一緒になって一緒に決めポーズの練習をして、魔法少女ごっこに精を出したものだ。


 そんな孫娘が、魔法少女になったなんて……。


 今や老婆という形容がぴったりになってしまった、しゃがれて皺だらけの潤いのない身体。いう事を聞かない草臥くたびれた全身に鞭打って、何とか日々を慎ましやかに送るしかない。

 そんな毎日に慣らされ受け入れてきたトモエにとっては、この非常識な知らせは、オリンピック開催の如何と同等くらいのものであった。

 多くの昔の夢を叶えることになった現代。トモエにとって、この世はもう何があっても驚くべき事ではないのだ。



 トモエは、よっこいしょとお気に入りのソファーから立ち上がり、緩慢にラジオ体操の動きをした。

 孫が夢を叶えて魔法少女になったというのに、自分だけこんな所で老いを嘆いている訳にはいかなかった。

 あの時、孫娘とトモエは一緒に夢を見て、一緒に悪に打ち勝つ同志だったのだ。

 慎重に慣らした身体は、不思議な事に普段の陰鬱いんうつな痛みも、不愉快なきしみも感じない。


 そうだ、自分はまだやれる!


 トモエは、写真と共に送られてきたオレンジ色のレオタードに身を包む。

 不思議と身体は羽のように軽く、何年振りかわからない疾走で人生新記録のタイムを刻めた。

 しゃんと伸びた背中に、失った身長を数センチ取り戻していた。

 みなぎる万能感。

 飛んで、跳ねて、走り抜けて。

 華麗なターンの後に、何度も何度も練習した決めポーズ。


「まっときぃ、すぐに行くぞ、ピンク!一緒に悪を打倒そうなぁ!」

 トモエはあの頃の孫娘と同じ生き生きとした顔で満面の笑みを浮かべた。

 そして、空へと舞いあがり長年のカンを頼りに孫娘の元へと翔け抜ける。


 今、魔法古少女トモエの伝説が始まった!

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