マンホールの蓋の下(4/9 花金参加作品)

 今日は、きょうちゃんと私の誕生日だ。

 京ちゃんと私はいとこで、私のお母さんは京ちゃんのお母さんの妹。お父さんはいなくて、4人で一緒に住んでいる。

 私と京ちゃんが同じ誕生日なのはものすごく偶然らしくて、何時間か京ちゃんの方がお兄ちゃんだ。お兄ちゃんで、とっても頼りになる。


 毎年誕生日には、二人のお母さんたちがごちそうとケーキを用意してくれる。

 私はいつも京ちゃんがプレゼントをくれるみたいに、プレゼントをあげようと思った。


 京ちゃんがお母さんたちと一緒にケーキを買いに行っている間に、こっそりと段ボールを運び込む。小学生になった私がなんとか入るくらいの大きな箱がいくつも。

 この空箱を、両脇に積み上げて同じ高さにした。

 そして、その真ん中には、大きな穴を5つもあけた段ボールを、橋みたいにかけた。

 私はその橋の下にしゃがんで入って、立ち上がって穴から顔を出す練習をする。


 そう、これは『もぐらたたき』だ。


 ひょこん。ひょこん。飛び出してみる。うん、できた!


 穴から顔を出したまま立ち上がって、ふと気がつく。

 立ち上がって身体がすっぽり出る穴は、大きすぎて足元が丸見えだった。これじゃ私がどの穴から出てくるか、すぐにばれてしまう。


 困りながら残った段ボールを見て、私はいいことを思いついた。そうだ、穴にふたをすればいいのだ。

 穴に合わせて大きな丸を5つつくったら、なんだかみすぼらしいツギハギに見えた。

 せっかく作ったのに、ツギハギなのはなんか格好悪い。


 私は急いでクレヨンを取り出して、ふたにマンホールの絵を描いた。

 もうだいぶ時間が経ってしまっていたから、京ちゃんが返ってくるまでに仕上げないと。

 この前、家の近くで京ちゃんと一緒に観察したマンホールはもううろ覚えだ。

 仕方ないから、真ん中にはニコニコマーク。最後の一個はちょっと余裕がでて、京ちゃんの顔にした。


 よし、今度こそ完成だ!早く京ちゃん帰ってこないかな。



 マンホールの蓋の下で京ちゃんを待つことしばらく。

 帰ってきた京ちゃんは、目をキラキラさせてよろこんでくれた。

 見せびらかすみたいに、マンホールの蓋を押し上げてひょこん、ひょこんと頭を出す。


沙帆すなほをたたいたりできないよ」

 京ちゃんはそう言って、もぐらのふりの私をたたくかわりに、飛び出した穴の先で、お土産のチョコレートを口に入れてくれた。


ひょこん、……ぱくり。ひょこん、……ぱくり。

甘くておいしい最高の誕生日プレゼントをもらった。

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