うさ耳ノリちゃん。

@ramia294

第1話

 森の中の一軒家に、ノリちゃんは、住んでいます。


 近くに家は無く、友だちもいません。早く大きくなって、学校というところに行くことを楽しみにしています。


 学校というところは、ノリちゃんと同じ年齢の子供が、たくさんいて、お友達が、たくさん出来るそうです。


 もう少しの間、ノリちゃんの遊び相手は、森の仲間です。森の動物や、虫や、木々が、ノリちゃんの遊び相手です。


 今日もひとりで、森の中を歩いていると、道に、ウサギさんの耳が、落ちていました。


 どうやらあわてんぼうのウサギさんが、耳を落とした事に気付かなかった様です。


「しかたないな。届けてあげよう」


 そう言って、ウサギさんの耳を拾いました。


 まだまだ小さなノリちゃんには、ウサギさんの耳は、持って歩くには、少し大き過ぎました。


 仕方なく自分の頭につけてみると、とたんに様々な声が、聞こえ始めました。


「いや、昨日の雨といい、今日の日ざしといい、とても気分がいいね」


「今日は、ドンドン成長出来そうだね」


 目の前の大きな木たちが、話しています。


 トン、トンと何処からか、音が聞こえます。


「こんにちは」


 緑色の綺麗な鳥が、大きな木の枝にとまります。


「良いお天気ですね。おや、ノリちゃんですね」


 うさ耳を付けたノリちゃんには、木の声も鳥の声も聞こえます。


「小鳥さん。この耳を落としたウサギさんが、何処にいるか知りませんか?」


「ノリちゃん。おしゃべり出来るのね。人間は、私たちの言うことも聞こえず、しゃべりも出来ない、かわいそうな動物と思っていたわ」


 そうか、人間は、かわいそうな生き物なんだ。そう、思うとノリちゃんは、悲しくなりました。でも…。


「耳を落としたウサギさんをどこかにいませんでしたか?この耳を届けてあげようと思っているのだけど」


「耳を落としたウサギですか。私は、みたことないわね」


 そう言って緑色の小鳥は、飛んでいきました。


 仕方なく、ノリちゃんは、森の奥へと、あるいていきました。小さなノリちゃんの靴に心地良い感触を、背伸びし始めた新緑が、与えてくれます。


 途中とても小さな川が流れているところまで来ました。天気の良い今日は、ピカピカして、まぶしいです。

 森で遊んでいるときには、これ以上深い場所には、踏み込みません。


「この森で遊ぶのはよいけど、この小川から奥に入っては、ダメよ。この森には、怖い怪物もいるのよ」


 お母さんに、いつも言われていたからです。


 少しためらいましたが、耳を落としたウサギの気持ちを思うと、勇気を出してキラキラの小川を越えるしかありません。 


 小川を越えると、それまで以上に声が、聞こえました。


「人間が、いるよ」


 木々が、ささやきます。




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