第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ
第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ 01
ナギサハイウェイは、鉄工の街ハチマンシティと運河の街ウィローシティを結ぶ、海岸沿いに位置する大動脈であり、その距離は約215キロメートル、車で片道3時間のその道を、レンタロウとサヤカはバイクに乗って走っていた。
結局レンタロウの怪我が全治するのに一週間以上かかり、ほぼほぼ怪我が治った頃にはマフの手によって、故障していたバイクは綺麗に完璧に修理されていた。
ハチマンシティでロスした時間を少しでも取り戻そうと、レンタロウは退院した翌日に出発する旨を事前にサヤカに伝え、出発当日、マフと、レンタロウ達とは別のルートを辿る事にしたスジカイに見送られ、二人はハチマンシティを後にした。
時は18時半頃。鉄工所が飛ばす塵に覆われたハチマンシティの灰色の空からも離れ、しばらくは茜色の空を見る事が出来たのだが、それも落陽と共に黒のグラデーションがかかり始めていた。
「なんだかちゃんとした空を見たのは久々な感じがしますねぇ~」
風に煽られながら、バイクの後部座席に座っているサヤカはのんびり海の上に広がる空を眺めていた。
「まあな。あそこの空はずっと灰色だからな」
バイクを運転しながら、レンタロウは僅かに空を見て答えた。
「一つ思ったんですけど、ハチマンシティから出た事が無い方って一生空は灰色だと思い続けてるんですよね?」
「まあ……だろうな」
「それって何だか可哀想ですよね。本当の空はもっともっと場所や気候で色々な色があるのに、たった一色しか見る事が出来ないなんて」
「そうだな……だけどそれは空だけで言える事じゃないと思うぞ」
「どういう事ですか?」
サヤカはレンタロウの背中を見ながら、首を傾げた。
「例えば生活だってそうだろ。特に今の情勢じゃ、帝国の縛りがきついところと緩いところでだいぶ生活様式が変わっちまう。ここ最近で行ったウルハイムとハチマンシティでさえも全然違っただろ?」
「そうですね……違いました」
「でもそこに居る人達は、それしか知らないからそれが当然だと思っている。世界を見れば、今自分がやっている事以外にも生き方ってのはあるのに、そこに留まる人間はそれを知らず、現状を受け入れて選ぶ事を忘れる。空はなにも、青だけとは限らないのにな」
「そう考えると、ワタシ達ってかなり自由なんでしょうね?」
「さあどうだかな。こんなキナ臭い商売をしている以上、特殊なルールには縛られる訳だからな」
「じゃあ本当の自由って何なんでしょう?」
「知らん。それに知ったところで、指を咥えて見る事しか出来んだろうから知りたくもない」
「……ですね。止めましょうこの話、くだらないです」
「ああ、ホントにくだらない話だった」
二人は笑い合って、笑うと体力を消費して、そして――。
「お腹減りましたね」
サヤカの腹の虫が鳴った。
「時間が時間だしな。もうちょっと行けばサービスエリアか」
レンタロウはヘルメットのシールドに映っているマップ情報を見て確認すると、車線変更をするために左のウィンカーを出す。すると左を走っていた車がスピードを緩めたので、レンタロウは加速してその車線に入った。
「周りが自動運転の車ばっかだからこっちも気楽に走れるぜ。ウィンカー出せば簡単に入れてくれるし、こっちが加速すりゃああっちが引いてくれるからな」
「ワタシ達だけですよ、今時ハンドル握って化石燃料で走ってるなんて」
「そもそも車を持ってる奴がほとんどいないからな。車なんて呼び出せばあっちから来てくれるし、維持費を考えたらそっちのが安上がりで済むからな」
「便利ですねぇ〜……ワタシ達はその恩恵から思いっきり逆行してますけど」
「あのなぁ……車なんて借りたら足がついちまうし、そもそもこんな整備された道路ばっか俺達は走る訳じゃねえんだ。オフロードをバイオエンジンや電気モーターなんて軟弱なモンで走ってたらすぐいかれちまうぞ。結局ああいう車はまだ街乗り専門なんだよ」
「はいはい。ほら、サービスエリア左ですよ」
熱弁をふるい、危うくサービスエリアに入り逃しそうになったところをサヤカに誘導され、レンタロウはウィンカーを出し、左にハンドルを切った。
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