第2話 鉄鋼街のコロッケパン 21

 それにと、マフは鼻で笑ってから続けた。


「仕事をしとらんかったらお前さんには会ってなかっただろうしな」

「執着は一度手放すと運を引き寄せてくるっていうしな」

「そのせいで修理代200万を取り損ねたからんじゃから、果たして運が良かったから分からんがの」

「よく言うぜ。報酬設定したのはジイさん、アンタだろ?」

「そうじゃったかな? 最近歳を取ってから物忘れが激しくてのぅ」

「自分の都合の悪い事だけ忘れるったあ、便利の良い物忘れだなジジイ」


 そう言ってマフとレンタロウは二人して笑い合った。

 笑い合い、ふとレンタロウの顔を見たマフは、ある日の息子と笑い合った日を思い出し、自然と目から涙が湧いて出てきた。


「……ありがとな」


 ふと、マフから出た感謝の言葉で、レンタロウの顔は穏やかな表情になった。


「いいってことよ……なあジイさん、俺が退院してこの街を出る日、一件連れて行きたい店があるんだ。そこは肉屋なんだが、コロッケパンが美味いんだ」

「そうか……そいつぁ……グスッ……楽しみだなチクショウ!」


 マフの息子が死の間際に口にしたコロッケパン。息子を失ってから、マフは一度もそのコロッケパンを口にする事は無かった。


 だが息子の仇を取ってくれた、本当の息子とは似ても似つかない程生意気だが、我が子のように可愛がる青年と今日この日、マフは共にそのコロッケパンを食べに行く約束を交わしたのだった。



(第2話 おしまい)

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