第2話 鉄鋼街のコロッケパン 14

 カラスマは拳銃の引き金を引き、次々と弾丸をレンタロウに向け撃ち込んでくる。


「クソッ!」


 あまりのカラスマの猛攻にレンタロウは反撃の体勢が取れず、かと言ってこのまま正面に向かい合っているだけではただの的になってしまうので、全速力で後方へと振り返り走り、最後には崩壊しかけの建物の中へと飛び込んだ。


「なかなか機敏だな。狙ったつもりではいたのだが」


 カラスマは拳銃の弾倉を取り出し、弾の入った新たな弾倉にリロードする。


 カラスマの持っている拳銃もレンタロウの所持している火器と同様にIDの制限を受けておらず、また電磁バリアを貫く中和銃であるのだが、しかしそれ以外にもう一つ、特殊な機能を搭載していたのだ。


「だがこの銃の弾は当たらずとも、キミの周りに掠るだけで十分なんだ……そろそろだろう」


 その刹那、レンタロウのナノデジが異常事態アラートを鳴らし始めた。


「なんだこれ……電磁バリアの濃度がどんどん下がってやがる!」


 レンタロウは驚愕し、対抗策として電磁バリアの強度を上げようとするが、しかしナノデジがその操作を拒絶してきた。

 

「クソッ! 全然歯が立たねぇ!」


 事態を打開しようともがくが、問題は一向に解消されず、その間にも電磁バリアの濃度は下がり続け、やがて薄皮一枚程度の最低濃度となってしまった。


「俺の持っているこの中和銃は貫通型じゃなく侵食型だ。電磁バリアの濃度が高い内は貫く事が出来ず、短期決戦を仕掛けるには向かないが、しかしバリアに弾丸が掠っただけでもその濃度は下がっていき、やがて電磁バリアが最小値になった所で獲物を確実に捕らえる」


 カラスマは銃を構えながら、レンタロウが壁にしている建物へ、じわりじわりと近づいて来る。


「ここまで俺を追ってきた礼だ、君には死に方を選ばせてあげよう。俺に撃たれて死ぬか、それとも瓦礫に埋もれて死ぬかどちらが良い。俺としては後処理が簡単な瓦礫に埋もれてもらった方が嬉しいのだが」


 そう言って三発カラスマは発砲する。すると弾丸が当たった箇所からヒビが入っていき、建物はミシミシと不穏な悲鳴を出し始めた。


「カウントダウンが始まったぞ。さあ、選べ」


 カラスマはレンタロウを煽る。その理由は口では瓦礫に埋もれた方が良いと言ったが、本音はレンタロウを直接撃ち殺したかったからだ。


 ターゲットを自身の手で葬る事こそが、カラスマにとっての最高の殺しの価値基準だった。


「勝手に選択肢を絞るなよ。俺が選ぶのはお前の指定したものじゃない」

「ほう、ではどうする?」

「お前を殺してここから逃げる!」


 レンタロウはアサルトライフル型の中和銃を実体化させ、建物から出るやいなやトリガーを引き、狙いをつける事なく乱射する。


「なっ! コイツ……!」


 まさか銃火器を持って反撃に出て来るとは思わなかったカラスマは一瞬すくんだが、しかし直ぐに気を取り直して拳銃の引き金を引いた。


「グッ……ウオオオオオオオオオオオッ!!」


 電磁バリアの濃度が薄い影響で、カラスマの撃った弾がバリアを打ち消してレンタロウの肩や足を掠り、その部位から出血し、通常ならうずくまる程の痛みが込み上げてくる。


 それでも自らを鼓舞し、アドレナリンを分泌させ、痛みを誤魔化してレンタロウは撃ち続けた。


 その結果、最初はまばらだった焦点が徐々に絞られていき、そして遂に――


「グフッ!」


 複数の弾丸が電磁バリアを破り、最後の一発がカラスマの脇腹を撃ち抜いた。


 出血箇所からは血がドクドクと流れ始め、引き金からは指が離れ、拳銃をその場へ落とす。


 次第に腕だけでなく体全体に力が入らなくなっていき、やがてカラスマは崩れるようにして膝から倒れた。


「ハァハァ……グッ! いってぇ!」


 今までアドレナリンで痛みを誤魔化していたレンタロウだったが、カラスマを倒した事によって冷静さを取り戻し、弾丸が当たった箇所から急激に痛みが込み上げてきた。


 特に右肩に当たった弾丸の傷は深く、痛みが激しかったため、レンタロウは中和銃をデータ化してナノデジに取り込み、空いた左手で右肩を押さえながら、倒れているカラスマの元へフラフラと歩み寄っていった。

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