第2話 鉄鋼街のコロッケパン 04

 それから二人はショーケースの中にある肉を眺めながら待っていると、奥の厨房から微かに油が弾ける様な音と、揚げ物が揚がった時の芳ばしい香りが漂ってきた。


 しばらくして油の音が鳴り止むと、店員の女性が奥から、コッペパンにコロッケが挟まれたコロッケパンをアルミホイルに包んで、それをプラスチックの白いトレーに乗せて運んで来た。


「お待たせしました。コロッケパンです」


 二人の前に差し出されたコロッケパンのコロッケはこんがりと丁度良い具合の狐色に揚がっており、室内灯の光に照らされて山吹色に煌めいていた。


 精肉店なのでコッペパンは市販の普通の物を使っているのかと思いきやそうではなく、近所にあるパン屋から仕入れたコッペパンを使っており、小麦色にふっくらと焼き上がったパンの上側は焼けて、良い具合に茶色味が深くなっていた。


「うわぁ美味しそう! やっぱり寄り道して正解でしたね!!」


 サヤカは目を輝かせながら、真っ先にコロッケパンを手にする。


「ったく、調子の良い奴……おっと!」


 レンタロウもコロッケパンを取ろうと手を伸ばしたその時、胸ポケットにしまっておいた写真を床に落としてしまった。


「ちょっとフブキさん、大切な写真なんですから気を付けてくださいよ?」

「ああ、スマンスマン」


 レンタロウが写真を拾い上げ、胸ポケットにしまおうとしたその時――


「あら、その人……」


 ちらりと見えた写真に写っている男の顔を見て、店員の女性は見覚えのある顔だという反応を取ってみせた。


「おばちゃん、この人知ってるの?」

「ええ、いつも来てくれる常連さんでねぇ。確か昨日はコロッケパンと牛肉のこま切れを買って行ったよ」

「そりゃ間違いないのか?」

「間違いないよ、常連さんだもの。だけどこう言っちゃ悪いけどその人、普通の人よりもなんだか暗い雰囲気がいつもするのよねぇ」

「そうか……ありがとうおばちゃん、助かったよ」

「そう? なら良かったわ」


 そう言って、店員の女性はやんわりと微笑んでみせた。


 思わぬ所で有力な情報が手に入ったが、とにかくまずは手に持っているコロッケパンを食べるために、何処か座って食べれらる場所を確保しなければならない。


 しかし精肉店の中にはイートインのような食事が出来るスペースが無かったため、二人はアルミホイルに包んだコロッケパンを手にし、外に出て少し歩くと誰もいない広場のような場所があったので、そこにあった自動販売機で飲み物を買い、屋根付きのベンチに腰を掛けた。


「それじゃあいただきまーす!」

「いただきます」


 二人はアルミホイルからコロッケパンを剥き出し、一口口にすると、その一口だけでコロッケのジューシーな味わいとパンの甘みが口いっぱいに広がった。


 コロッケはカラッと揚がっており全く余分な油分を感じず、具であるジャガイモは全てマッシュされているのではなく、所々ハッキリとした形が残されており、それがホクホクした食感に加えて、ゴロゴロとした口触りを感じさせた。


 コロッケを挟んでいるコッペパンもふんわりとした食感がし、バターや小麦粉の甘みをしっかりと感じ取る事が出来た。


「んん〜! このコロッケパンすごくジューシーで美味しいですね!」


 サヤカは満面の笑みでコロッケパンを次々と頬張っていく。


「ああ、なんていうか、初めて食ったのに懐かしい感じがする……」


 レンタロウもコロッケパンを一口ずつ噛み締め、何度か口してから先程自動販売機で買ったミルクティーを流し込んだ。


「コロッケの挽肉って、やっぱりジャガイモと比べたら脇役になっちゃいますが、そこは精肉店、まばらにある挽肉からも良い味が出てますね~」

「昔っから思ってたんだけど、メンチカツならまだ肉がメインだから分かるけど、コロッケってジャガイモがメインだろ? なのになんで精肉店の奴ってこんなに美味いんだろうな?」


 レンタロウが食べかけのコロッケパンを眺めながらそう言うと、サヤカは少しだけ考えてから答えた。


「う~ん……それはやっぱりこの入ってる挽肉が良い物を使ってるのと、油がラードだからじゃないですか? 多分……」

「多分って……」

「そんなの知る訳無いじゃないですか。ワタシお肉屋さんじゃないんですから」

「まあ……そうだな」


 そんな実の無い会話をしながら、二人はコロッケパンを口にしていった。

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