第2話 鉄鋼街のコロッケパン 03

「それでフブキさん、手掛かりになりそうな情報は?」


 サヤカは隣で、だらしなく背中から壁に寄り掛かって、鉛色の空を仰ぎながら立っているレンタロウを見て尋ねた。


「この写真とヤマシタ ヨタロウって名前だけだ」

「ヨタロウ? 与太郎って……それ名前からして明らかに偽名じゃないですか!」

「まあな……この写真だって、顔変えられてたら何の手掛かりにもなんねぇしな」


 そう言って、レンタロウは写真を持っている手をヒラヒラと力無く振ってみせた。


「つまり、人探しよりまず情報集めからって事ですね?」

「まっ、そうだな……」


 何だか面倒な依頼を受けたかもしれないと、レンタロウは溜息を吐いて、肩をガクッと落とした。


「それならまず人が集まりそうな場所に行ってみましょうよ。もしかしたらその人、他の人にも同じ偽名を使ってるかもしれませんし」

「そうかぁ? そんな事あるかぁ?」

「ありますって! えっとそれじゃあ検索モード。ハチマンシティ、有名なお店」


 サヤカがナノデジの音声検索機能を使うと幾つかの店が出てきたので、その中から一軒気になった所を選び出した。


「この近くにサビツキっていう、ハチマンシティでは有名なカフェがあるみたいですね。そこに行ってみましょうか?」

「カフェぇ~? そんなとこで見つかるかぁ?」

「じゃあ否定するなら、フブキさんには何か代案があるんですか?」


 迫ってくるサヤカに対して、レンタロウは身を引き、視線を逸らした。


「いや……無い」

「ほらぁ~だったら早く行きましょ!」


 勝ち誇った表情をしたサヤカは、レンタロウを差し置いて先頭を切り、歩き始めた。


「チッ……まあいいや。どうせ昼だし、腹ごしらえも兼ねて行ってみるか」


 腹時計の具合を見て、レンタロウは今やほぼ流通されていないアナログの腕時計を見てみると、針は13時ちょっと過ぎを指し示していた。


 情報集めという点ではあまり期待していないが、昼食を取るには丁度良い時間だったので、レンタロウは修理屋の壁から背中を放し、意気揚々と進むサヤカの後ろをゆっくり歩いて着いて行った。


「あっ!」


 カフェに向かう途中、サヤカは突如足を止めた。


「どうした?」

「お肉屋さんのコロッケパンですって!」

「ああ? コロッケパン?」


 二人が立ち止まったのは、マエダ屋と看板に記されたいる、何処の町にでもありそうな普通の小さな精肉店だった。


「精肉店のコロッケってハズレが無いですよねぇ〜」

「まあ、そうかもな」

「揚げたてですって!」

「そうか」

「美味しそうだなぁ〜……ここで食べないと向こう一年は食べれないだろうなぁ〜」

「…………」


 足に根を張るが如くその場に立ち止まり、サヤカの催促はどんどん脅迫じみてきた。


「分かった分かった! さっさと買うぞ!!」

「流石フブキさん物分かりが良いですね!」

「それ褒め言葉になってないからな……ったく」


 結局レンタロウが折れ、二人は精肉店の中へと入る。正面に広がるショーケースには牛や豚や鶏などの多種多様の肉が置いてあり、その隅の方にひっそりと、まだパン粉も付いていない揚げる前の具だけのコロッケがトレーの上に置かれていた。


「いらっしゃいませ。何になさいますか?」


 ショーケースの先に居る、50代くらいのエプロンを着た女性が二人の接客に当たった。


「フブキさんもコロッケパンでいいですか?」

「ああ」

「じゃあコロッケパン二つください」

「コロッケパン二つですね。コロッケを揚げるのにお時間少々頂きますがよろしいですか?」

「大丈夫です」

「はい。それでは二つで800リョウになりますね」

「フブキさんお願いします」

「はいはい」


 所持金は全てレンタロウが管理をしているため、支払いはレンタロウのナノデジから行った。


「ありがとうございます。では今からコロッケを揚げますので少々お待ちください」


 すると店員の女性はコロッケの具が乗せてあったトレーをショーケースから取り出し、店の奥にある厨房の方へと向かって行った。

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