鉄の丘

@kagi-kakko

わけありスティード

角砂糖の主

 

 “大きなお盆に角砂糖が一個”


 なんて長ったらしい例えをする者がいた。

 そう言われたって仕方がない。

 その小っぽけなバイク屋は、だだっ広い田んぼの中に、ぽつんとあったものだから。


 なんだってそんなところに店を構えたの?

 そう訊かれると、きまってバイク屋の主はこう答えてはぐらかせていた。


「インテリは、大きい胸より小さい胸を好むんだよ」


 バイク屋は、テリーの愛称で呼ばれる男が一人で切り盛りしていた。

 男はアメリカの大学を出たインテリで、インテリをもじっての“テリー”だ。

 テリーは常々ぼやいていた。

 こんな渾名はナンセンスだ、と。


「ティーポットを紅茶で洗うようなものだ」


 というのが理由らしい。

 インテリの言うことは理解しがたい。




 テリーの店は、なりの割にたんまり儲けていた。

 バイク販売と整備は体面を保つためのカモフラージュで、店に潤いをもたらせていたのはカスタムだった。

 カスタムと言うと聞こえはいいが、社会からはいい顔されない改造である。

 危ない橋も渡った。

 素行の悪い青年相手のほうが金になったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る