見下げる空
@maco314
第1話
朝が来た。カーテンから指してる光に目を細めながら窓の方へ向かう。外を覗いてみると男の人がランニングをしている。カレンダーに目を向け今日が待ちに待った休日だと確認する。自分は普通の会社員で特に趣味があるわけでもない。何故それなのに待ちに待ったかというと休日にある習慣があるからだ。休日になると決まってあの人に会いに行く。もしかしたらあの人に出会ったから趣味がなくなってしまったのかもしれない。それくらい目が離せなかった。病院で入院中の彼女は、機嫌が悪いときもある。人に八つ当たりをしてしまうときだってある。だから自分は少しでも彼女を支えてあげたくて休日はいつも会いに行っている。だって自分はいつも彼女の言葉に励まされてがんばれているのだから当然の義務だとも思う。彼女の言葉は空に関する言葉が多い。外出できないからかもしれない。そう思うと心が痛くなる。
「私はあなたに殺される。」
いつか彼女はこんなことを行ったときもあった。
「空はつながってるから私達は離れてもつながってるとか言うけど私はそうは思わないの。空はつながってても会えないんじゃ寂しいじゃない。でもね、もし会えなくなってしまったら空を見ててほしいんだ。下向いてほしくないからね。」
こんなこと言ったときもあった。薬の副作用なのか彼女が正気を失って話せなくなるのではないかと本気で心配をした。
今日は彼女とどんな話ができるだろう。はやる気持ちを抑えながら病院に向かった。
でも彼女はいなかった。退院したのか?いや、何も言わずそんなはずがない。とりあえず受付の人に聞きに行った。そして悟った。自分が聞きに行けるはずがないと。自分には羽がある。そして鎌も。人間ではないのだ。その瞬間全部の糸がつながったかのように膨大な情報が押し寄せた。彼女は知っていたのだ。自分が死神だと。そして知っていてなお優しい言葉をかけていてくれたのだ。どこをどうやって歩いたのか覚えてないが気づいたら会社の前にいた。もちろん普通の会社なんかじゃない。会社には自分のように傷つき泣き喚いているもの、それを慰めている人がいる。自分は慰められる側だった。どんな慰めの言葉をかけられてもどうしても気になる。僕が見惚れたから彼女は死んだのか。彼女が死ぬから僕が見惚れたのか。今考えても分からないことは分かっているのにふと考えてしまう。
「仕方ないさ。死神はこうやって生きていく。生きていくしかないんだ。」
全部抜けていった慰めの言葉の中で忘れられない言葉だった。そしてもう一つ忘れられない言葉が。
「死神はまた死神であることを忘れる。」
何でこんな残酷なんだとも思った。彼女は空を見てほしい。前を見てほしいと願ってくれた。だけど僕には無理だ。羽のある僕には空は見上げるものではない。彼女のことを忘れたくなくて寝て起きたら忘れてそうで夜もずっと起きていた。でもそれでも僕のまぶたは落ちていった。
朝が来た。ーテンから指してる光に目を細めながら窓の方へ向かう。外を覗いてみると男の人がランニングをしている。いつもの風景なのになぜかランニングしている男の人に目を奪われた。
見下げる空 @maco314
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