不満解消──3



最初にホムラの挑発にのって襲いかかってきた女の顔面を殴り、自動防御魔法発生装置でダメージこそ入らなかったが怯んだ隙に剣を奪い、容赦なく斬った。


自動防御魔法発生装置から音が鳴り最初に挑んできた剣士は敗北判定が決まる。


弱っている獲物に群れで襲いかかるかのように女が一斉にホムラを襲う、昔は邪道を歩み例え男が相手でも容赦しない、どんな卑怯な手を使ってでもホムラを痛めつけてボロボロにして後悔させてやると意気込む──しかしホムラの方が一枚上手だった。




「コイツ! 顔面ばかり狙ってくるぞ!! 」




いくらダメージが無くとも顔面を狙えば怯む、怯んだ隙に斬ればいい、一人目の実験で成功したのならそれで何人か脱落させればいい、ホムラは確実に相手を敗北させる手段を考える。


剣を逆手に持ち、足を狙って刺そうとしたら相手はバランスを崩した。また一人ホムラの餌食となった。




「この野郎! 調子に乗りやがって!! 」




大ぶりな一撃を避けて背中を蹴飛ばして転ばせ思い切り振り下ろし、次の獲物を睨むと女は剣を捨てて逃げ出した。

ホムラはすかさず飛び跳ねて蹴り飛ばして転んだ女を斬る。


剣士同士の戦いとは思えない一方的な虐殺が始まった。




「や、やめてくれ! 」


「い、いやだ! 近づくな!! 」


「どうしてだよ!! どうして男がこんなに強いんだよ!!! 」




審判達も思わず目を背けるほどの光景、かつて野盗だった悪どもが少年相手に涙を流しながら逃げ惑い、剣を振る事なく敗北判定が出た参加者の方が多くなった頃、審判の一人がホムラの表情を見て背筋が凍った。


喜びも無く、怒りも無く、淡々と獲物を見つけては確実に敗北判定が出るまで追い詰める姿は本当に人間なのかと思わず疑ってしまうもの



「死ね!! 」



頭に血が昇った女がホムラの顔面を蹴った。




「…………」


「ひ、ひいい!! 」




ホムラは微動だにしない、ダメージが入らない事がわかっている。敗北判定が出ない攻撃に対して一々反応する事はないのだ。


いよいよ本格的にホムラに対して恐怖を抱いた女達は悲鳴を上げながら剣を捨て逃げ惑う、審判達は判断に迷った。大会初の事態、参加者達の半分以上が戦う意思を失くす事など無かったからだ。


狩られる側も狩る側も剣士とは思えない光景、特に、死人が出ないとは言え武器を捨てて戦意を失い逃げ惑う人を躊躇なく斬るホムラの姿は同じ剣士として審判達は恐ろしく見えた。




「そ、それまで!! 第一予選勝者、ホムラ・アーガネット!! 」




参加者六十人が敗北判定が出たと同時に審判達はこれ以上の試合の続行を不可能だと判断して、ホムラを予選通過者として第一予選を無理矢理終わらせた。


会場の扉が開けられると第一予選の参加者達が慌てて飛び出して逃げる姿に他の参加者は驚き、戸惑った。




「皆さん、予選頑張ってくださいね」




しかし予選会場から出てきたホムラの笑顔を見ると逃げて行った連中の事などどうでも良くなり会場の中に入っていった。


それを手を振りながら見送ったホムラは控室に戻り予選が終わるのを静かに待つ、準備運動にすらならなかった予選試合だったが剣士としての感覚が充分すぎるほど研ぎ澄まされ、次の相手に想いを馳せた。


時は過ぎて夕方、本選に勝ち上がった剣士達は専用の豪華な控室に案内され、ホムラは勝ち上がった剣士達の名前を見ていた。




「アリウス、サリアヌ、メリル、母から聞いていた強い剣士だな、個人的に挨拶はしておきたいが本選まで接触が禁止されている以上無理な話だが」


「戦争時代に名を馳せていた剣士達ですね、高潔な方々で彼女達の部隊は指揮が高く、兵士達の練度も高かった」


「クリスも面識があったのか」


「いえ、私はもっぱら砦や城を破壊していただけですから顔は知りませんが兵から名前は聞いていました。兵糧攻めをしても士気が落ちることが無く攻めて来た部隊がいましたので印象深いです」


「あぁ……」




歴史を学んでいて戦争の形に変革を及ぼすきっかけになったのがクリスの一族だった事を思い出して渋い顔をする。


《ゾーンバイトが剣を降ればその土地は人が住めなくなる》そんな言葉がどこの国にも刻まれているとガリアは笑いながらホムラに言っていた。


帝国を出て落ち着いて改めて勉強してホムラは思った────人が住めなくなるような土地になったら例え土地を占領してもうまみがなければ統治に難儀する。クリスが剣士として戦争に参加していた時の軍の総司令官は母のガリアだったのだから相当苦労したのだな、と




「役割上直接会う事はありませんが、本選に上がった剣士達は皆戦争の時代で名を残した剣士やその弟子達です。くれぐれも油断なさらないように」


「あぁ、もちろん」







「死にさらせ馬鹿弟子ッ!! 」


「くたばれやクソババァ!! 」



「────────!!」


「──────!!」



「う、うわぁ……」



本選が始まり第二試合に選ばれたホムラは第一試合を見学していた。一目見ただけで強者だとわかる二人が師弟だと聞いてホムラはますます期待をして試合を見ていたが震えていた。




「あらあら、怖がってかわいそうに」


「見るなアーガネット、あれはお前の教育に悪い、今すぐ頭からあの二人の存在を消してしまえ」


「上等な男が見ていると言うのにあの馬鹿共は」


「この国の恥っす」


「情けなくて涙が出てくるゼ! 」


「誰かアイツら追い出してくれよ、同じ本選に勝ち残った剣士として恥ずかしいったらありゃしねぇ!」


「行き遅れとはこうも醜い……」




同国の剣士から散々な言われようをしている剣士の二人、アディナとアリウスはスワロテリでも名の知れた師弟で弟子のアディナはリーンとホムラの対戦相手でありながら抱きついているミランと並んで新時代の剣士として名高い、かつては師弟仲がとても良かったが同じ男に惚れて、最初こそ良好な関係だったが、お互い出し抜き欲望のままに男を求めた結果男は逃げ去った。


それ以来出会うたびに口汚く罵り合い戦いに発展する。抱き締めながらホムラの頭を撫でる包容力のある女剣士のメリルは困った表情で言う




「帝国にもあの二人と似たような者はいたが、国中の者が見ている前でここまでする者はいなかったぞ……!! 」




あまりにも下品で過激な舌戦、その上確かな実力者である二人の剣士のぶつかり合い、観衆に醜態を晒しながら泥臭く戦い、観客達も盛り上がる。


怖い


おそらく国主催の大会でなければ堪忍袋の尾が切れて乱入して黙らせているであろうリーンに耳を塞がれたホムラは二人が何を言っているかはわからなかったが周りの剣士達の表情からさらに酷くなったのだろうと察し、耳を押さえるリーンの手の強さの痛みに耐えながら試合が早く終わるのを待っていた。




『観客の皆様! 盛り上がっているでしょうか!!』




観客達は大きな歓声で司会に応える。




「あぁ……」




落ち込む声を出すリーンを見て不本意なんだなとホムラは何も言わず見ていた。




『第二試合はザラド帝国、いや、世界初の男剣士!それでいて貴族でもある麗しき剣士、ホムラ・アーガネットの入場です!! あっ! 対戦相手のミラン含めて他の剣士達に見守られながら入場しております!! 』


「余計な事まで言うな!! 」




予選とは違い本選では自分で用意した服を着用して装置を装備する。これが意味する事はホムラの美少年度が五割り増しで観客達を襲った。




「「「お゛う゛っ゛!?」」」




どこかしらにホムラの魅力が刺さった女達は淑女にあるまじき汚声で迎えられたホムラは複雑そうな表情で舞台に立った。


四方の観客席にそれぞれ礼をして、最後に王たるクロノールが座する特別席に向かって膝をついて礼をする。


大地が揺れたかな? と現実逃避をしながら司会に早くミランを呼べと促したが、ホムラに見惚れて動いていない事に気づいて自分でミランを連れて来たが同じく目にハートを浮かべているのでは無いかと思うぐらい見惚れていたが舞台に立つと元に戻った事に安堵した。



「……ホムラ様、いえ…………旦那様」


「旦那になった覚えはないぞ」


「この試合に勝てば、私の夫になっていただきたく」


「やだよ、もっと仲良くなってから口説いてどうぞ」


「──!! つまり、まずは友達からと言うわけですね」


「……因みに家族計画は? 」


「子供は二人欲しいですね、私は一人っ子でとても寂しい思いをしましたので、後は静かな場所で過ごしたいです」




儚い雰囲気、薄幸系美少女にそう言われて思わずくらっと来たが気を取り直して剣を構えた。



「貴女の夫に相応しいかはこの戦いで貴女に見てもらいましょう」


「──まぁ、なんと情熱的! 」





歓声から一転、観客達はミランへのブーイングに代わりに司会は慌てて試合を始めた。




「貴方の妻に相応しいか、私の幻惑剣技を味わってくださいませ」


「──────ッ!? 」




『おーっとミラン選手、他国の男相手に容赦なく幻覚魔法を使用したぞ! 観客からは更にブーイングが巻き起こるがホムラ選手、どう対処するか!! 』




幻覚魔法、男からも女からも嫌われる魔法の一つであり、魔法の適正が幻覚魔法しか無い場合は表舞台での活躍は不可能、更に過去幻覚魔法で国の要人を暗殺した事件や男への誘拐や性犯罪にも使用され、人に知られてしまえば後ろ指を指されて生きていくしないのだ。


勿論魔法を知るホムラはこの事の意味を知る。観客達のブーイングに舌打ちをしながら神経を集中させる。




(邪な気持ちじゃこんな事できるかよ)




姿が見えないのは当たり前、たとえ姿が見えなくとも音と気配でどこにいるかなど容易にわかる事、しかしミランを感じることが出来ないのだ。


思わず舌舐めずりをする。


あの王様、とびっきりの剣士がいるじゃないかとホムラは笑みを浮かべた。




「────クリス! もしもの時は頼む!! 」




好奇心、今まで試した事の無かった事が今なら試せるとホムラは剣を構える。




「こ、こ、こ、これはどうした事か!? だ、男性であるホムラ選手まで幻覚魔法を使い始めて両者舞台から消えてしまったぞ!? 」





『む、無茶苦茶すぎます! 』


『ま、お互い見えないみたいだし、確実に一手ずつ詰めていくしかないな』


『魔法を使っているのに悠長な事を』


『もしもの時に魔力の負担に身体が耐えきれない、って事態を避けたいからこんな時にでも魔法を使って身体を慣らしたい、本当に危なくなったら使用人が止めてくれるから大丈夫だ』




(ホムラ様には申し訳ありませんが、速攻で終わらせます)




ミランはスワロテリでは無く、サラロビア大陸とザラド帝国の間にある島国の生まれだった。


その島の領主の息子は島唯一の男で、島の宝として大切に育てられた。


穏やかな性格で面倒見が良い、身体が弱く病にふせがちだが、困っている人がいれば助けようとする。


ミランも恋とまではいかなかったが、優しい兄の様な存在に慕っていたがある時、何者かにその息子は誘拐され、見つかったものの自ら命を絶ち、島は悲しみに包まれたのだ。


名の知れた凄腕の剣士のような才能が無い、だけどどうすれば守る事が出来るのかと悩み模索して辿り着いたのは他人の感覚を支配する幻覚魔法、姿を隠した悪意を持つ者を殺す為に、いつか出会うかもしれない愛する人から認識されなくなっても守る為に、後ろ指を指されても守る為の力としてミランは幻覚魔法を磨いていた。



(たとえ姿が見えなくともこの会場全てに私の魔力を薄く放出しているのですから、この舞台で動いている者を斬ればいい)



「ぐえっ! な、何でバレたんだ!? 」


『おぉっと! ホムラ選手姿を現した!! 』


「くっ!! 」




ホムラは後ろに下がり距離を取る。しかしペースは完全にミランの物となり、防戦を強いられ始めた。


目には見えなくても肌に感じる剣気でどう攻撃されているかわかるから防げるがミランがどこにいるかが掴めず攻撃に転ずることができない、幸いミランの剣は破壊力が少ない為に防いでも腕への負担は軽微な物、落ち着いて対処すればチャンスは掴める。ホムラは呼吸を整えて神経を集中させて防御の構えをとった。




(ダメージが数値化されて百に到達すると敗北判定が出る……俺の為に早く終わらせようと一番点数が稼げる首の心臓を狙うのがわかるから防げるが、どうしたものか! )




ミランより帝国の幼馴染達の方が剣の腕は強い、しかし自分が持つ魔法と組み合わせた戦法、その実用性と魔法の理解度の高さはホムラが見て来た剣士の中でも頭ひとつ秀でていた。


何よりも嫌われる魔法で後ろ指さされても尚ここまで物にしたミランの執念と努力にホムラは敬意を表したいと思うほど、ならばこの者と戦うに相応しくあらねば無礼千万、ホムラは舞台に正座して目を閉じる。


僅かに感じた踏み込む音、即座に反応したホムラは膝立ちで剣を振り上げた。



「──────くっ」



速すぎた──腹部の激しい痛みを堪えながら剣を押し込められている感覚にすぐさま反応して剣を持たぬ腕と足で離れぬように抑え込んだ。




『ホムラ選手! ミラン選手の一撃が直撃してうずくまってしまったぞ!』




(────違います。これは! )


「やっと捕まえた」




ホムラの足元にノイズがかった魔法陣が浮かび上がると赤黒いオーラに包まれる。




「────────────魔力ッ…………かいっ、ほうッ!!!!」


「いけません!! 」




ミランは会場中に放出した魔力を吸収したホムラの身体へのダメージに気づいたミランが慌てて消した事によってミランの幻覚魔法が解除された。


そしてホムラは放出されていたミランの魔力を充分なほど吸収できていた。


ホムラから溢れ出た魔力がスパークとなりあたり一面に走る。自動防御魔法装置のおかげで観客達や建物を傷つけることはないが、観客達は人生で初めて男に恐怖した。




「…………己の身を顧みずっ! 何故貴方は戦うのですか!? 」


「強くなければ何も救えない、何も守れない、他人も、自分も、それが戦う理由」


「それがたとえ周りの大切な人を傷つける結果になっても、貴方は戦うのですか? 」


「……あぁ」


「酷い御方です」


「………………わかっている。だけど、ずっと前に、剣をまともに握れない頃に戦うと決意したんだ」




左手に持つ剣の刃が光り輝き、薙ぎ払うように振った。




『第二回戦! ホムラ・アーガネット選手の勝利です!! 』

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