平穏の終わり──2





ゴーレムの身体が次々と砕け、機能を停止し力なく地面に落ちる。




「動ける者は怪我人を安全な場所に」


「クリス様、ホムラ様は……」




クリスはゴーレムを次々と破壊するホムラを見る。




「ホムラ様がああなった以上私には止められません、すべての敵を斬るまであのお方は止まることなく戦い続けます。しかし心配はいりません、あの方は──とても強い」




ホムラが吾郎だった頃、剣魔と恐れられていた時、その戦いの激しさから災害と揶揄され、日本刀を至上とする界隈の剣士からは獣のチャンバラと侮蔑された。


剣魔と呼ばれていた頃を絶頂期とするなら、今のホムラは五パーセントがいいところであろう、それでも激しく舞い、激しく戦う事でターゲットを自分に向け、地を這うように駆けてはその勢いのまま斬り、人間離れの跳躍力から体重を込めた一振りでゴーレムを真っ二つにした。


息が切れても、その勢いは衰えるどころかさらに激しさは増していく




「……見事」




里の剣士の誰かが思わず言葉を漏らす。





(どこから、どこから湧いて来たこのゴーレムはッ!? どこのゴーレムなんだこれはッ!? )




里に出現した三メートルのゴーレムを全滅させて次は人間サイズのゴーレムに剣を振るう、愚鈍な巨大ゴーレムと違い、ホムラの剣と何度か打ち合うが直ぐに真っ二つにされて機能を停止させた。


ゴーレムの持っていた剣を奪い、壊れてはまた剣を奪いを繰り返し、里に出現したゴーレムは一体、また一体と機能を停止する。




「ふーーっ!! 」




呼吸を整え周りの戦況を見る。




(よし)




巨大なゴーレムは愚鈍だがパワーがあり、人間サイズのゴーレムは速い、両方残っていては避難すらままならい為に先に巨大なゴーレムを破壊した事で避難する者を護衛する剣士とゴーレムと戦う剣士の配分が良く、むしろ巨大なゴーレムがいない分戦力は此方に傾いた。


しかしこの島の里はここだけでは無く、いくつもの里があり、鉱山もある。故にホムラは焦っていた。


至る所に上がる火の手、剣の素材と剣で貿易し収入を得ていたこの島で鉱山と鍛冶屋が死ねばこの島は終わる。


何よりも大切なこの島と島の人達を守るために、ホムラは剣を振るい続けた。




「ホムラ様!里の者の避難は済みました! 」


「次だ! 俺は隣の里に向かって」


「ししょー!」


「リリ!? お前まさか、戦っていたのか!? 」


「はい! お婆さん達を助ける為に小さいゴーレムと戦っていました! 」


(前世が剣士の俺ならともかく、九歳の子供が自分よりデカいゴーレムと戦って無事なのはやべぇだろ!? この世界の女の子のバイタリティ化け物か!? )


「お母さんは危ないって言ってたけど、あちこちからゴーレムが出てきて……他のみんなも戦っています!! 」


「はは、すげ」




ホムラは自分の頬を叩き気合いを入れ直す。




「俺は隣の里から順に回ってゴーレムを殲滅させる! リリはクリスと一緒にこの里を襲うゴーレム達を倒してくれ、リリ、俺の教えは覚えているな?」


「はいっ! しっかり相手の動きをよく見る事っ!! 」


「よし! じゃあここは任せたぞ」


「了解しましたししょー! 」


「ホムラ様、剣の交換を」




クリスは自分の予備の剣をホムラに渡し、ホムラが使っていた剣を受け取った。




「ししょー!私の短剣もししょーに!! 」


「ありがとうクリス、リリ」




ホムラが今持っている剣はガルーから与えられた三本に加えてリリの持つ予備の短剣とクリスのパタ、ありとあらゆる剣の申し子たるホムラにとってどんな剣でも問題ないのだ。







「ありがとうございますホムラ様、なんとお礼を言ったらいいか」


「問題ない、それよりも引き続きゴーレムの警戒を頼む!俺は更に次の里に向かう! 」





ガルーの里から飛び出して五つの里に出現したゴーレムを撃破したホムラ、その道中の森でも幾度となくゴーレムと戦った。


木を駆け上がり木々の間を飛び回り、里の家々の屋根から屋根へ伝い、室内でも激しく戦ったホムラ、休む間の無い連戦に連戦を重ねて身体も剣も悲鳴をあげているが、まだ止まれない




(五百から先は数えていないがこの数、国家間の戦争の規模だぞ)




前世で剣を振るだけの男だったが今は貴族の子、様々な教育を受けて剣を振る事以外を知るホムラはゴーレム達を観察しながら考える。


このゴーレムの持ち主は相当な数を揃えるだけの資金を持ち、帝国と対をなす大国であるスワロテリの監視網を潜り抜け島民の人に気づかれずに襲撃をした事を考えると相当な闇を感じられずにはいられない





「どけっ! ゴーレム共っ!!」




吼える。斬る。駆ける。囲まれてもすぐに突破して目についたゴーレムを次々と破壊するが直ぐに囲まれた。




「くっ、出来ればリリとクリスの剣は壊したく無いが」




人間と違ってゴーレムは遠慮をしない、そしてホムラも遠慮をしない、だからこそ剣と剣がぶつかれば剣の負担が凄まじく、ついつい使うのを渋ってしまうのだ。




(前世だったら気にしなかったんだけどな、剣魔ま甘くなったものだ)




クリスのパタを装備して、木々の隙間から姿を表したゴーレムに襲いかかろうとした時、ホムラは動きを止める。




「────この衝撃ッ!! 」




空から降り注ぐ赤色の熱線、その先にいるのはゴーレムだろうとホムラは確信する。





『こちらはザルド帝国空軍第三航空魔導隊である。これよりゴーレムの駆除を開始する!』


「…………ザルド帝国の最新空艦、ヴァリエ級一番艦ヴァリエを持ち出してきたか」




夜明けの空に浮かぶ船には皇室直属機の証であるロイヤルゴールドの装甲、そして船から飛び出した魔導士達を見てホムラは剣を降ろした。




「俺がいるからって張り切りすぎるなよバカ共」


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