アボガドの種

@avocadoseed

第1話

それを初めて見たのは、高校時代の親友ユリからLINEで送られてきた写真だった。


茶色い岩のようなものの割れ目から、緑の芽が力強く生えている。


芽は水に浸され、その水は透明でこまめに手入れされていることが分かる。


それからしばらくして、ネットの記事で、食べ終わったアボカドの種は水耕栽培できることを知った。


種をきれいに洗い、とがったほうを下にして、爪楊枝を斜めに指し、種の下半分が水に浸かるよう活ける。


ユリは高校時代モテモテだった。


私とユリは吹奏楽部で一緒に打楽器をしていて、同じ打楽器パートにいた男子二人は、ふたりともユリのことが好きだった。


ユリは超美人というより透明感のある女の子で、派手ではなく清潔感があった。


性格も穏やかで優しく、たまたま部活で親しくなれた私にとってユリは自慢の友達だった。


ユリを好きだった男子二人は、ひとりは自意識過剰で問題外だったけど、もうひとりのダイスケくんは女子から人気があった。


個性的でおもしろいのに気取りがなく、魅力的な男子だった。


ダイスケくんとも仲良しだった私は、ユリへの気持ちを知っていた。


そしてユリからある日、ユリがダイスケくんのことを好きだと聞いたとき、危機感を抱いた。


ふたりは両想いだ。


ふたりの気持ちを知る私が仲を取り持てば、ふたりは付き合うだろう。


そうしたら私は今みたいに毎日ユリと帰れなくなる。


それは嫌だと思った。だから私は何も言わなかった。


そしてふたりは(たぶん)お互いの気持ちを知ることなく、付き合うこともなく高校を卒業して疎遠になった(ようだ)


私は卒業後もユリと連絡を取り合い、ユリはバイト先で知り合った年上の先輩と25歳で結婚した。


ダイスケくんは福祉系の大学を卒業後、定職につかずDJや作曲をしていた。


久しぶりに会ったとき、ダイスケくんはポスティングのバイトで生計を立てていると言った。





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