DREAM NOTE

田村サブロウ

掌編小説


 高校生のオニマルは夢遊病に悩んでいた。


 夜にベッドで寝て、朝に目を覚ましたらキッチンにいたなどというのはまだ良い方。


 朝起きたらゴミ捨て場で犬のおしっこを顔にかぶってたり、冷たい感触に飛び起きたら川の中だったなんてエピソードもある。


 自然の成り行き任せにするのに限界を感じたオニマルは、近場の心療内科に行って診てもらうことにしたのだが。


「ちょうどいい時に来ましたね、オニマルさん」


 心療医師のこの発言をきっかけに、話が妙な方向に進んでいった。


「実はウチの病院で、夢遊病を逆に利用する特殊な道具を開発しまして。夢遊病の間、自分がなにをするかコントロールしようというものです」


「はぁ」


 ピンとこないオニマルは生返事だけ返した。


 医師は話を続ける。


「このノート……便宜上、『ドリームノート』って名付けてるのですが。ノートのページに自分の行動内容を書くと、あらふしぎ。夢遊病でノートに書いたことを行うようになるのです」


「……」


「あっ。信じてませんね? 実際、他にも2人にこのノートを渡したのですが。それはそれは喜んでくれましたよ」


「喜ぶってどんな風に?」


「眠っている間に宿題ができたとか、眠ってる間にスマホゲームのSSRを得られたとか」


「……」


「信じてませんね!?」


「わかりましたよ、信じます。信じればいいんでしょ」


 心療医師の妙な迫力に押されて、本心はともかくオニマルは折れた。


「けど、オレにそんな怪しいもの買うつもり無いですよ? 今日は普通の夢遊病の治療をしてもらうつもりで来たので」


「怪しいって! やっぱり信じてませんね!? ええい、こうなったらドリームノート、切れ端でも効果があるので1ページ分あげます!」


 心療内科は手でノートを1ページ分だけ切り離すと、オニマルに手渡した。


 オニマルは嫌な顔をする。ただの紙のゴミなんて無料でもいらない。


「いいですか、オニマルさん。その紙に、夢遊病の間に自分がなにをやりたいか書いたあと、まくらの下に敷いて寝てください。そうすれば夢遊病の間、紙に書いたことと同じことを行えるはずですよ」


 心療内科が熱心に語るドリームノートの使い方を、オニマルは話半分に聞いていた。


 こんな怪しいもの、使う気など無いのだから。




 * * *




 だが、『ドリームノート』の切れ端になにか魔力のようなものでもあったのか。


 夜になったころ、オニマルはまるで導かれるようにノートの切れ端をまくらの下に敷いていた。


「とりあえず、『数学Aの練習問題を1ページ分やる』って書いといたが……大丈夫かねぇ」


 もともと半信半疑、ダメならダメで取り返しがつく行動内容にしておく。


 まくらの下に切れ端をしいて、オニマルは睡眠に入った。




 * * *


 


 数日後。


 オニマルは例の心療内科に向かっていた。


『ドリームノート』の切れ端が功を奏し、数学の練習問題がちゃんと1ページ分済んでいたからだ。


「医者さん! すごいぞあのノート! 夢遊病中の行動、ちゃんとコントロールでき……えっ」


 心療医師を目にして、オニマルは度肝を抜かれる。


 なんと医師は、まるで大人数に袋叩きにあったかのように殴り痕だらけだった。


「医者さん! なにがあったんだ!?」


「お、オニマルさん……あなた以外の、夢遊病患者2人に……やられました」


「一体なにをされたんだ!?」


「眠ってる間にやった勉強が身についてなかっただの、ガチャでSSRを引くまで払った課金額が多すぎるだの……元々の勉強の実力やクジ運まで、こっちで保証なんてできませんよぅ……うぅ」


「……」


「オニマルさん。ドリームノート……いります?」


「……すごく、すごく言いづらいんですが。遠慮します」


「ですよねぇ」


 夢遊病を利用するだなんて、人類には早すぎた。


 この考えで、オニマルと心療医師の心はひとつになったのだった。

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DREAM NOTE 田村サブロウ @Shuchan_KKYM

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