第1話幽霊を信じるって素敵じゃないですか?

人の顔を目視すれば、その人の本心を無意識に見てしまう能力を、僕は持ってる。

そんな僕は今日も、教室の隅から名前も知らないクラスメイト達の笑っている顔を目視した。


“問題ない”


学校を終えた帰り道、ボランティアマークを右腕に付けた中年の男の顔を目視する。


“認められるべき”


なにを認めて欲しいのかはわからないけど、自己優越感に浸っている。


漏れる人間の汚さを、同時に目視して呟く。


「笑える、いや笑えねー」


 人の本心というものは、感情や気持ちの形だったり、或いは本人すら認識できないものだったりもする。

厄介なことに、本心と感情は矛盾する時もある。

簡単に言ってしまえば、人間としての根本的本能や極限の軸みたいなもので、「理性」も「人それぞれ」も通用しない生物にとっての共通できてしまう欲のようなものなんだ。

別に、僕は心理学に詳しいわけでもないし、それを信じているわけでもない。それに哲学者でもないから、誰かにこのことを話しても何も得られはしない。

だけど、どうしようもないものだ。

誰の顔を目視しても、その人の本心が漫画の吹き出しのようになって現れる。見たい訳じゃないけれど、そう見えてしまうのだから仕方のないことなのだろう。

不思議なことに、人間はそんな本心が汚いと思っているらしく、そんな汚さを隠すために偽っているんだ。決して悪い訳じゃない。

そうして上手く生きているんだから。僕だって同じなんだ。都合のいいように偽って生きて来たんだ。

故に、偽りに対しては理解していて諦めもそろそろ着く頃だ。だけどさ、納得がいかないんだ。だから今も、こうして文句を浮かばせているだけ。

 いつも憂鬱に感じる帰り道に、一つの石ころに対して文句をぶつけるよう何度も蹴り飛ばしながら歩く。

偽りだらけなこの世界。

信じられる者がないこの世界。

そんな世界に、果たして信じるものがあるんだろうか。


僕は考え始めている。

そしていつか、こんな考えを馬鹿にしてきた他の人間達のことを、何も考えていない浅はかな人間だと、心の中で解釈した。


 翌日、目がひらく。

考えっぱなしだった昨日の頭の中。その続きが始まる。


「そうだ。」何かを確信して小さく呟いた。


 信じる信じられない以前に信じようがないだけだ。この世界の本心が見えるのだから。

「信じる」さえもこの世界が生み出した偽りであって、人が作り上げた形だけのつごうのいい綺麗事だ。

 既に慣れていた朝の習慣を熟して家から出ている。今日も僕の心に合わせた曇る空に、無温な外気を受ける。

そして、登校中にそんなことを考えている自分に安堵していた。


「僕は間違えていない」そう呟く。



 普段通っている高校までは自転車を利用している。時々、特別な意味もなく今日の様に徒歩で向かう時もある。特別な意味もないはずなんだけれど、不思議なことが一つある。

それは、自転車で通う場合と徒歩で学校へ向かう場合に、自転車を漕いで十分程で着く距離の道のりのくせに、徒歩で向かう時だけは、どうしてなのだろうか。到着するまでの時間はバラバラで、その差は10分から20分以上空く時もある。理由はわからない。


「別になんだっていいか。」


また呟く。


 こんな偽りの世界で生きる僕は高校1年生 秋野 心。今日もクラスで飛び交う偽りの空間の中で過ごす。

もちろんこんな僕だから、クラスでも独り。あまり人と関わりを持たない。でも、それはむしろ望んでいることだ。

しかしながら、ある事情や自然な日常生活で関わる人間に対しては、一般人同様に関わり誰もが思う当たり前のように対処している。

ただ、「顔を見なければ大丈夫」と自分に言い聞かせながら。

クラスの人間にどう思われているのか知らないし、知りたくもないから。そうやって自分の心の中で全ての偽りに対して句点をつけて完結させ理解してきた。納得してきた。能力を生かして誰よりも上手く生きて来た。だから僕は人間関係に対しては得意なのだ。


 


    ある1人の存在を除いて。

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