第74話 都の情勢と和睦の噂、そして旅立ちへ

 朝倉宗滴と近衞家の屋敷で出逢ってから、宗滴は何度か近衞家を訪れていた。朝倉宗滴は当家を訪れると、鷹に触れ、鷹について語っていった。自然と私や叔父も朝倉宗滴との交流が深まっていく。私も叔父も、朝倉宗滴を尊敬し、敬意を抱き始めていたのである。


 しかし、朝倉宗滴が近衞家を訪れることも途絶えてしまうこととなった。京の都での平穏な日々は長続きしなかったのだ。都の情勢は次第に不穏なものへと変化していく。

 11月の始めになっても、足利義晴方は動く様子を見せなかった。そのため、都の公家たちは、足利義晴方は大軍を率いているにも拘わらず、いまだに開戦しないことで、公方や細川高国たちを不審に思う様になっていった。何故、足利義晴方が優勢なのに、急いで決着をつけないのか不審であると、噂される様になっていく。

 その様な都の公家たちの不安は現実のものとなってしまう。


 11月中頃、柳本賢治が丹波国から、波多野氏・赤井氏など含む丹波勢を率いて上洛してきたのだ。また、三好元長は摂津国、畠山義堯は河内国から軍勢を率いて、続々と入洛する。

 しかし、足利義晴方、細川六郎方の双方が入洛したものの、何故か合戦に至らなかった。

 細川六郎方の軍勢は、上京を彷徨いていたそうで、公家たちは恐怖を感じつつ、天魔の仕業と嘆いている。都の中を彷徨う軍勢に、公家たちは気が気でなかったのだ。



 その様な中で、11月15日を迎えた、叔父の帯解きの儀が執り行われたのであった。

 叔父は、正室である祖母の維子が生母であるため、嫡出の子である。本来ならば華やかに帯解きの儀を催すものの、都を両軍が彷徨っているため、最低限の儀式となってしまった。都の公家や武家は、何処も同じ様な有り様であろう。

 しかし、叔父は文句を言うことなく、儀式を終える。儀式を終えた叔父は、私に鷹を催促してきた。叔父にとって念願だった鷹は、私が譲り渡すことで、正式に叔父の所有となったのである。

 叔父は、私から譲られた鷹を愛おしげに見つめると、私に向かって必ずし大切にすると約束してくれた。

 私は叔父に鷹を譲ったことで、寂しさを感じつつも、大切にすると言う叔父の言葉を信じるのであった。



 11月下旬になると、公家の和気親就や一条烏丸の畳屋に牢人が押し寄せ、家財を強奪する事件が発生する。公家たちの間では、今日は物騒であると恐怖を隠しきれない様子であった。

 足利義晴方、細川六郎方の軍勢が集結し、多くの武士が都に駐留していたことで、治安が大いに悪化してしまったのである。

 足利義晴方では、11月29日に新たな援軍が越前国から到着する。前波氏らが3千の兵を率いて入洛したのだ。

 都では、散発的な戦闘が発生する様になる。細川高国勢が、畠山義堯配下の遊佐堯家を討ち取ったり、波多野勢が五条周辺で数十人討たれるなどの戦いがあった。

 堺公方の畠山義堯は、足利義晴の本陣である東寺を襲撃している。しかし、朝倉宗滴・朝倉景紀ら朝倉勢が畠山勢を撃退したのであった。


 公家たちの間では、今日に至るまで、武家の争いに決着がつかないのは、全くとんでもないことだと不満が高まっている。

 足利義晴の陣には10万近い軍勢がいるらしいが、細川六郎方は2万程度だと言う噂が流れていた。そのため、何故、足利義晴方は決着をつけにいかないのか不思議でならないと公家たちの間では囁かれている。


 こうして、足利義晴方と細川六郎方の間では、散発的な戦いはあったものの、決着が着かず、戦線は膠着状態となっていた。

 このまま年が終わろうとしていたところ、足利義晴方と細川六郎方で和睦交渉が始まったとの噂が流れ始める。



 足利義晴方と細川六郎方で和睦交渉が始まったとの噂が流れたことで、戦闘は落ち着きを見せ始めていた。

 私が比叡山延暦寺へと出家する挨拶は、交流のあった人々とほとんど既に終えている。

 和睦交渉で都が大人しくなっている内に、比叡山へ赴く準備をした方が良いだろう。

 そして、私は父や祖父と話し合いを行った。年明けは、まだ和睦交渉で戦闘が落ち着いていると予想されることから、正月が終わってなるべく早く出立することで決まる。

 こうして、慌ただしい年末年始を送ることとなるものの、私の旅立ちの日は近付いていくのであった。

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