大男との闘い
第13話 テトルの告白
ニャウたちが思っていたよりはるかに大変な、ペット探しの依頼を終えてから二日がたった。
パーティ四人は、次の依頼を探しに冒険者ギルドを訪れていた。
朝一番にやってきたので、掲示板の前は、まださほど混雑していなかった。
その時、後からギルドに入ってきたハゲ頭、髭もじゃの大男が、彼らの方へのしのしと近づいてきた。
この男の名は、ドラド。『タイラントのオーガ』という二つ名を持つ、銀ランクの冒険者だ。
四人は掲示板の依頼書を読むのに集中しているため、大男に気づいていない。
ドラドは、ニャウの三倍はありそうな手のひらを、テトルの肩にドスンと置いた。
「ぐあっ!」
いきなり膝が折れるほどの衝撃を受け、テトルが悲鳴をあげる。
そんな少年を、大男はニヤニヤ笑いながら見おろしていた。
「テトルよ、ここんとこしばらく顔を見せなかったじゃねえか。それにずいぶんと身入りのいい依頼をこなしてるらしいな」
「ど、ドラドさん……」
テトルからはいつもの威勢が影をひそめ、おびえた顔で唇を震わせている。
「で、そいつらが噂になってるっつう、お
大男は、明らかに馬鹿にした目つきで、ニャウたち三人を見まわした。
「こ、こいつらはボクとは関係ないです。赤の他人です……」
「ホントにそうか? おめえ、パーティ組んだらしいじゃねえか。そいつらがパーティメンバーなんだろ?」
「い、いや、こいつらは――」
ドラドの言葉を否定しようとしたテトルだったが、タウネがそれを許さなかった。
「そうよ。テトルと私たちは同じパーティだけど、なんか文句ある?」
背丈の違いから、下からぐっと睨みつけるタウネに、大男は大きな口をいっぱいに開け、腹を抱えて笑った。
「がはははは! おいおい、嬢ちゃん、やけに威勢がいいじゃねえか!
そうだ、いい事を思いついたぜ! テトル、おめえ今日からは今までの四倍払えよ。なんせ、その嬢ちゃん含めて四人もいるんだからな」
「テトル、払うってなんのこと? こいつに何を払ってんの?」
タウネから話しかけられても、テトルは黙ったままだ。
唇を噛んで悔しげにうつむいている。
「いいか、もし払わねえってんなら、そいつらも一緒に――」
大男が明らかに脅しだとわかる言葉を続けようとしたとき、とがめるような声が割ってはいった。
「ドラドさん、またなにか問題を起してるんじゃないでしょうね?」
足を開き腰に手を当てて仁王立ちしているのは、ギルド受付のメイリンだった。
ドラドは媚びるような表情を浮かべ、いかにもとってつけた言い訳をした。
「め、メイリンちゃん! お、俺はなにもしてねえよ。後輩冒険者に挨拶してただけだ。な、そうだろ、テトル?」
テトル少年はドラドから顔をそむけるだけで、それには答えなかった。
「お、そういえば仲間を待たせてるんだった。
じゃあまたな、テトル。さっき言ったこと、くれぐれも忘れんなよ。だけどよ、そんなちっこい娘っ子ごときが仲間なんて、お前らのパーティはこれからさぞや活躍するんだろうな、がはははは!」
ドラドは去り際にニャウを指さすと、けたたましく笑いながらギルドから出ていった。
「テトル君、あなた大丈夫? ずいぶん顔色が悪いわよ」
うつむいているテトルをメイリンが気づかう。
しかし、テトルは首を振るだけで口をつぐんだままだった。
「とにかく、なにかあれば私に話してちょうだい。あのドラドって人、ちょっとワケありだから」
メイリンはそんな言葉を残すとカウンターの向こうへ入っていった。
「おい、テトル、隠してないで、なにがあったか言ってみろよ」
バックスはそれまで黙ったままだったが、テトルの肩に手を置くと気安い感じでそう言った。
それでもなんの説明もしないテトルを見て、タウネがため息をついた。
「どうやらここでは話せないらしいわね。みんな、どこか落ちつける場所へ行きましょうよ」
「うん、そうしようよ」
ニャウの言葉を合図に、四人はギルドを出た。
カウンターの奥で事務作業をしていた小太りの男が、彼らの背中をずっと目で追っていた。
◇
タウネが選んだのは、大通りから一本裏道に入ったところにある、落ちついた雰囲気の軽食屋だった。
浮き彫りが施された、しゃれた扉を開け中へ入ると、少し薄暗いが、かえってそれがおしゃれな雰囲気を醸しだしていた。
テーブルは飴色に磨かれた一枚板で、店主がこの店にかける意気込みが感じられた。
「ずっと前から、一度ここに来てみたいと思ってたんだ」
タウネはそう言うと、さっさと奥の席へ座った。
ニャウがその隣に座ったので、四人掛けのテーブルは、男女で向かいあう形となった。
愛想のよい中年の女性が注文を取っていくと、バックスがさっきの出来事に水を向けた。
「で、あのドラドっていうやつから、どんな目にあってたんだ、テトル?」
「……どうしても言わなくちゃいけないか?」
「当たり前でしょ! 私たち全員、もう当事者なのよ!」
タウネの言葉を聞いて、テトルはやっと心を決めたようだ。
「じゃあ、聞いてくれ。ボ……俺はあのドラドってやつから金をむしりとられてたんだ」
「金を盗られる? それって泥棒じゃない! どうして衛士に通報しないのよ?」
「タウネはまだ冒険者になりたてだから知らないだろうけど、冒険者同士の争いはギルド内で解決すると決まってるんだ」
「法でそう決まってるってこと?」
「そう聞いてる。それにあいつは、『指導料』って名目で金をとってるんだよ。なんにも教えてなんかくれないのに」
「それなら、冒険者ギルドに報告すればいいだけじゃないのかな?」
「確かにニャウの言うとおりなんだけど、もうそれは試してみたんだよ」
「すでにギルドに通報したことがあるってこと?」
「ああ、そうだよ。だけど、ギルドは動かなかったんだ。むしろ、ギルドに告げ口したって理由で、ドラドからひどい目にあわされたよ。あの時は、一週間も動けないほどやられたんだ」
「どうして!? どうしてギルドは、そんなヤツを見逃がしてるのよ!?}
やりきれない気持ちからだろう、タウネは固く握りしめた拳でドンとテーブルを叩いた。
テトルは、形の良いあごを撫でながら思案顔になる。
「いろいろ考えてみたんだけど、一番可能性が高いのは、ギルド職員の中にドラドの仲間がいるんだと思う」
「ま、まさかメイリンさんが!?」
「いや、ニャウ、まずそれはないと思う。だけど、ドラドが悪い事を続けてこられたのは、まちがいなくギルド職員の誰かが彼に情報を流しているからだ」
「で、あんたはどうするつもりなの? まさか、このまま泣き寝入りするつもりじゃないでしょうね?」
「タウネ、お前は簡単に言うけど、じゃあいったいどうすりゃいいんだよ!」
「……なんとかしてドラドをやっつけられないかな?」
「ニャウ、君は本当にそんなことができると思うのか?」
「だけど、テトル、おいらもこのままじゃいけねえって思うぞ」
「バックス、お前もか! そんなことは言われなくったってわかってんだよ!」
「み、みんなちょっと落ちついて。ええとね、私のスキルを使えば、もしかしたらうまくいくかもしれない」
「えっ! ニャウ、ドラドをなんとかできるってこと?」
「うん、テトルはもちろんだけど、タウネとバックスにも協力してもらわないといけないんだけど……」
「お安いご用よ!」
「もちろん、おいらも協力するぜ!」
「じゃあ、計画を話すね」
ニャウは、仲間に自分の計画を話して聞かせた。
そして、せっかくの料理がすっかり冷めてしまうほど、みんなその計画に夢中になった。
四人は力を合わせて、銀ランク冒険者ドラドと戦うと決めた。
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