第1話『今もビキニを着られるでしょうか。』

 どっち派かという話題で盛り上がった後は、俺も氷織も好きな日常系アニメを観ることに。氷織の提案で、夏休みに海で遊んだり、主要キャラの一人の家族が所有する別荘にみんなでお泊まりしたりするエピソードを。

 海水浴のシーンを観たときは、夏休みが始まった頃に氷織達とみんなで行った海水浴のときのことを思い出した。あの海水浴は楽しかったな。

 このアニメは俺も氷織も原作漫画を持っているほどに好きなので、キャラクターやシーンで話したり、ギャグシーンで一緒に笑ったりして盛り上がった。


「面白かったですね!」

「ああ、面白かったな! ただ、ギャグシーンでは思いっきり笑っちゃったから、家にいるのが氷織と2人きりで良かったよ」


 そう。今、家にいるのは氷織と俺だけだ。父親のりょうさんは仕事、母親の陽子ようこさんは友人に会っており、中学生の妹の七海ななみちゃんは部活で不在だ。


「結構大きな声で笑っていましたね。あのくらいの大きさなら大丈夫だと思いますよ。七海は明斗さん以上に大きな声で笑うことがありますし、一緒に笑うこともありますけど、うるさいと両親から注意されたことは全然ないですね」

「そうなんだ」


 娘達の笑い声だから、聞こえててもうるさいとは思わないのかな。


「あと、夏休みのエピソードを見ると、今の季節と合っていていいなって思うよ」

「そう言ってもらえて嬉しいです。提案してみて良かったです。私、夏には今のように海や旅行、冬だとクリスマスや年末年始といった季節に合うエピソードを観ることが多くて」

「そうなんだ。氷織の言うこと分かるなぁ。季節が合っているとより楽しめるよな。今観たエピソードも何度も観たことがあるけど、今回が一番楽しかったし。まあ、そう思えたのは氷織と一緒に観たのもあるけど」

「ふふっ、そうですか。嬉しいお言葉です」


 言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言うと、氷織はそっと俺に寄りかかってきた。俺と目が合うと、氷織はニコッと笑いかけてくれて。この一連の言動が全て可愛くてキュンとなる。


「あと、海水浴のシーンを観たときは、氷織達とみんなで行った海水浴のことを思い出したよ」

「私も思い出しました。海水浴、楽しかったですよね」

「楽しかったな。……海水浴のシーンを観たから、夏休み中に氷織と2人で海水浴に行きたくなってきたよ。2人きりで海水浴に行ったことは一度もないし、氷織の黒いビキニ姿をまた見たいから。それに、みんなで行った海水浴からの帰りに、また海水浴をしようって言ったからさ。氷織と海水浴デートしたいな」

「海水浴デートいいですね! 夏休みも残り2週間ですし、もう一度あの水着を着て明斗さんと遊びたいです。青い水着を穿いた明斗さんをまた見てみたいですし」

「そう言ってくれて嬉しいな。じゃあ、海水浴デートをしようか」

「はいっ!」


 氷織は明るい笑顔で返事をしてくれる。さっき、短編小説を読み終わって俺が面白いと言ったときと同じくらいにいい笑顔だ。海水浴デートに行くことが相当嬉しいんだろうな。行きたくなってきたって言ってみて良かった。


「いつ、海水浴デートしましょうか?」

「そうだなぁ。今月中のバイトのシフトはもう決まっているから、まずはそれを確認してからだな」


 そう言い、俺はローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取り、カレンダーアプリを開く。このアプリに氷織とのデートやバイトのシフトなどの予定が書かれている。

 氷織も自分の予定を確認するためか、スマホを手に取っている。


「次に予定が空いているのは明後日だ」

「明後日ですか。その日は……私も特に予定は入っていませんね」

「そうか。じゃあ、さっそく明後日に海水浴デートをするか?」

「いいですね! ちなみに、明後日のお天気は……関東地方は一日よく晴れるみたいです」

「そうなんだ。晴れるならより明後日に行くのがいいな。今後、どういう天気になるか分からないし」

「そうですね。では、明後日は海水浴デートですね」


 氷織は嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。

 俺はカレンダーアプリで、明後日……19日のところに『氷織と海水浴デート』と予定を書き込む。書き込むことはもちろん、空欄だった日に氷織とのデートと予定が表示されると嬉しいものがある。


「……あっ」

「どうした? 氷織」

「プールデートや海水浴のときに着た黒いビキニのトップスを今も着られるかどうか確かめたいと思いまして。海水浴の後に胸のサイズがFカップになったと分かりましたから」

「そうだったな。氷織の新しい下着を一緒に買いに行ったな」


 それも今年の夏休みの思い出の一つだ。

 持っている下着のいくつかがキツくなってきたことがきっかけで、氷織の胸のサイズがFカップになったと分かった。だから、水着のトップスが着られるかどうか気になったのだろう。


「一緒に買いに行きましたね。あのときに明斗さんに選んでもらった下着はとても素敵でお気に入りです。今も付けています。……さっそく、着られるかどうか確かめてみますね。明斗さんが水着姿を見たいと言ってくれましたし」

「分かった。あと、ありがとう」

「いえいえ。……ボトムスの方も着てみます。体重は特に増えていませんが念のために」

「ああ」


 ちゃんと着られると確認するに越したことはないもんな。服の上からだけど、パッと見た感じでは氷織が特に太ったようには見えないけど。


「じゃあ、さっそく着替えますね。夏休みが始まった頃のお家デートでスクール水着姿を見せたときには、着替えている間は背を向いていましたが……今回はどうしますか? 明斗さんなら着替えるところを見られていてもかまいませんが」

「スク水は一度も見たことがなかったからな。着替え終わったときのお楽しみってことで背を向けたんだよな。……今回は見ているよ。着替える姿を見たいし」

「ふふっ、分かりました」


 氷織はクローゼットから黒いビキニを取り出して、水着に着替え始める。

 氷織はロングスカートとフレンチスリーブのブラウスを脱ぐと、夏休み中に俺が選んだ水色の下着姿に。


「水色の下着か。凄く似合ってる」

「ありがとうございます」


 氷織はニコニコしながら下着を脱いでいく。

 今日も氷織はとても綺麗な体をしている。あと、この部屋で氷織の裸を見るのは肌を重ねるときくらいなので、氷織を見ているとドキドキしてくる。

 氷織は黒いビキニのボトムスを穿いていく。


「ボトムス、ちゃんと穿けました。特にキツくありません」

「良かったな」

「はいっ」


 氷織はニコッとした笑顔になる。ちょっとほっとしているようにも見えて。体重は増えていなくても、実際に穿けると安心できるのかもしれない。

 続いて、氷織は本題であるビキニのトップスを着ていく。

 今の氷織を見ていると、みんなで海水浴に行ったとき、波に飲まれた際に氷織のビキニのトップスが脱げて胸をポロリしてしまったことを思い出す。あのときは、一緒に行った火村さんが拾ってくれたっけ。氷織がビキニのトップスを着直す際、氷織の胸が見られないように、火村さんと葉月さんと一緒に氷織の周りに立ったな。


「トップス着られました! 胸がキツくありませんし、特に苦しさもないです」

「おぉ、良かった」

「はいっ。このビキニ気に入っていますから」


 氷織は嬉しそうな様子で言う。

 氷織のビキニ姿を見るのは先月の海水浴以来だ。本当によく似合っているし綺麗だと思う。あと、氷織の部屋の中でのビキニ姿だから、何だかちょっとエロさも感じられてドキドキしてくる。普通なら水着を着ない場所だからだろうか。


「明斗さんにじっと見られるとドキドキしますね」


 えへへっ、と氷織は照れくさそうに笑って。それもあって、氷織のビキニ姿がより似合っている印象に。可愛いな。


「氷織のビキニ姿がとても似合っているからな」

「ありがとうございますっ」

「あと、ビキニ姿を見たら、明後日の海水浴デートがより楽しみになったよ」

「嬉しいです。ビキニを着たら、私もデートがより楽しみになりました」

「ははっ、そうか。あと……この部屋でビキニ姿の氷織もいいなって思うから、写真を撮らせてくれませんか?」

「ふふっ、かしこまっちゃって。いいですよ、明斗さん」

「ありがとう」


 俺はスマホでビキニ姿の氷織の写真を何枚か撮らせてもらった。氷織とのツーショット写真も。部屋の中でのビキニ姿はいいものだ……と写真を見て改めて思った。


「氷織。写真を撮らせてくれてありがとう」

「いえいえ。今の写真、LIMEで送ってくれますか?」

「分かった。あと、写真を撮らせてくれたささやかなお礼だ」


 そう言い、俺は氷織にお礼のキスをする。

 さっき、水ようかんを食べたのもあってか、氷織の口からはこしあんの優しい甘味がほんのりと感じられて。あと、氷織がビキニ姿だから、いつものキスよりも氷織の甘い匂いが濃く香ってきて。そのことにドキドキさせられる。

 俺から唇を離すと、目の前にはうっとりとした笑顔で俺を見つめる氷織がいて。そのことでよりドキッとして。


「ビキニ姿でキスしていますから、いつも以上にドキドキします」

「俺もだよ、氷織」

「そうですか。明斗さんをドキドキさせることができて嬉しいです。……もっとキスしたいです。いいですか?」

「もちろんさ」

「ありがとうございますっ」


 嬉しそうにお礼を言うと、氷織は俺を抱きしめてきて、その流れでキスしてきた。ビキニ姿だから、氷織の体の柔らかさがはっきりと伝わってきて。さっきのキス以上にドキドキする。

 ドキドキしているのか、氷織は舌を絡ませてきて。そのことで、さっきよりも氷織の口から水ようかんのこしあんの甘味が強く感じられて。

 少しして、氷織の方から唇を離す。舌を絡ませるほどのキスをしていたから、氷織の唇が唾液で湿っていて。


「舌を絡ませちゃいました」

「気持ち良かったよ。……ビキニ姿を見て、いっぱいキスをしたら……えっちしたくなってきたよ」

「私も……えっちしたくなってきました。今は家には私達が2人きりですし、夕方まで家族は誰も帰ってきませんから……しましょうか」

「ああ、しよう」


 俺は氷織のことをぎゅっと抱きしめてキスをした。




 それから、ベッドの中で氷織と肌を重ねた。

 これまで、日中に氷織と肌を重ねたことは数えるほどしかないから新鮮で。

 キスしたのもありビキニ姿の氷織も綺麗で艶っぽさを感じられたけど、ビキニを脱いだ一糸纏わぬ氷織はそれがより強く感じられて。

 部屋でビキニになって、俺とたくさんキスをしてドキドキしていたのもあってか、氷織は最初から積極的で。そんな氷織がとても魅力的に感じられた。




「今日も気持ち良かったですね」

「ああ。気持ち良かったな」


 肌を重ねた後、俺と氷織はベッドの上で寄り添った体勢に。いっぱい運動をして体が熱いのもあり、エアコンの涼しい風がとても気持ち良く感じられる。


「平日の日中から明斗さんとえっちできて幸せです」

「俺もだよ。ビキニ姿の氷織も良かったけど、裸の氷織もいいなって思った」

「ふふっ、ありがとうございます。私も裸の明斗さんもいいなって思いました。えっちするときにはいつも思っていることですけどね」

「俺だってそうさ。一緒にお風呂に入っているときにもな」

「私もですよ」


 氷織は俺の左腕をぎゅっと抱きしめて、ニコッと笑いかけてくれる。至近距離に氷織の顔があるし、氷織の温もりや柔らかさがダイレクトに伝わってくるからドキッとして。


「明斗さん。明後日の海水浴デートについて話しませんか? どこの海水浴場へ遊びに行くとか、荷物はどうするかとか」

「そうだな」


 海水浴デートをより楽しめるように、事前に色々と決めておいた方がいいだろう。

 その後、元々着ていた服を着てから、どこの海水浴場に行くのか、持って行く荷物の担当はどうするかなど明後日の海水浴デートについて氷織と話し合うのであった。




 また、夜になって、俺がお家デートのときに読んだガールズラブの短編小説が小説投稿サイトで公開された。

 面白い、キュンとなったといった感想が続々と書かれ、翌日には恋愛ジャンルや短編のランキングの1位に躍り出た。凄いなぁ。氷織の小説が楽しまれ、ヒットしてとても嬉しい気持ちになった。

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