第23話『体育祭当日』
6月8日、火曜日。
いよいよ体育祭当日になった。
天気予報によると、今日の東京は曇りでたまに日が差す時間があるとのこと。雨が降る心配はないそうなので、体育祭を実施するには最高の気候じゃないだろうか。
いつも通り、自転車で待ち合わせ場所である高架下まで行くと、そこには氷織の姿があった。氷織曰く、昨日は普段よりも早めに寝たので体調は万全とのこと。体育祭当日だから、それを聞いてほっとしている。ちなみに、俺もよく眠れたから元気だ。
「明斗さん。おはようのキスをしましょうか」
「ああ。しよう」
「今日はちょっと長めにしませんか? 体育祭を頑張るためにも」
「そうだな。今日は頑張ろう」
「はいっ」
俺からおはようのキスをする。
外にいるため、いつもなら数秒ほどだ。ただ、今日は氷織からのお願いがあるので、いつもより長い時間唇を重ねる。
唇から氷織の唇の感触と温もりを感じると、元気な体がより元気になっていく。
俺から唇を離すと、そこには頬を赤らめて俺を見つめる氷織がいた。凄く可愛い。
「ありがとうございます、明斗さん。今日の体育祭を頑張れそうです」
「俺もだよ。じゃあ、学校へ行こうか」
「行きましょう」
俺達は高架下を出発する。
「いよいよ体育祭当日ですね」
「そうだな。去年はお祭り気分で勝ちへのこだわりはあまりなかったけど、今年は中学までの体育祭みたいに勝ちたい気持ちになってる。初めてチーム対抗リレーに出るし、リレーと二人三脚の練習を結構やったからかな」
「私も勝ちたい気持ちになっていますね。あと、去年は100m走と玉入れでしたので、事前の練習は全くせずに体育祭を迎えました。なので、お祭りという感じでしたね。自分の出番以外は沙綾さんなどの文芸部の友人達と話すことが多かったですし」
「そうだったんだ。俺も去年の体育祭では、自分の出番以外だと……和男やクラスメイトの友達と漫画やアニメの話ばかりしていたかも。もちろん、友達が出ているときは応援したけど。緩い感じだったな」
「ふふっ、そうだったんですね」
中学の体育祭までとは違って、高校の体育祭は緩い雰囲気だなぁ……というのは覚えている。あとは、徒競走系の競技中心にたくさん出て、1位を取りまくる和男が凄いと。和男が出るときは恋人の清水さんやクラスのみんなと一緒に盛り上がったな。
「今日の体育祭は、青チームが優勝できるように頑張りましょうね。もちろん、楽しみましょう」
「そうだね、氷織」
氷織達と同じチームだから、去年よりも体育祭を楽しめるのは確実だろう。青チームの優勝に貢献できるように、自分の出場する二人三脚と借り物競走、そしてチーム対抗の混合リレーを頑張ろう。
気づけば、俺達は学校近くの道を歩いていた。今日は体育祭だからか、一部の生徒はジャージ姿で登校している。ジャージ登校許可の話は先生から聞いていないけど。まあ、体育祭当日だから、多少の注意で済むんじゃないだろうか。
学校に到着すると、教室A棟の入口に、会議室が男子の特設更衣室で、別フロアにある視聴覚室が女子の特設更衣室であるという紙が貼られているのを見つける。
氷織と話し、特設更衣室で体操着に着替えてから、一緒に教室に行くと決めた。
氷織と一旦別れて、俺は男子の特設更衣室である会議室へ。
全校生徒が使う更衣室なので、中にいる男子生徒達は知らない人ばかりだ。ただ、俺のことを見てくる生徒達は何人もいる。おそらく、氷織と付き合っていることが影響しているのだろう。
周りからの視線を感じつつ、俺は制服から体操着に着替える。ジャージは上着だけ羽織る形に。
待ち合わせ場所に決めた教室A棟の昇降口に行くと……まだ氷織はいないか。俺は結構早く着替え終わったし、男子の特設更衣室の方が近いからな。
スマホを取り出し、ソシャゲの連日ログインボーナスを回収していると、
「お待たせしました、明斗さん」
すぐ近くから氷織の声が聞こえた。
スマホをバッグにしまって、声がした方に向くと……そこには俺と同じく、体操着の上にジャージの上着を羽織った氷織の姿が。氷織は青いヘアゴムを使って、長い銀髪をポニーテールの形に纏めていた。
「……凄く可愛いよ、氷織。ジャージ姿とポニーテールの組み合わせが最高だ」
気づけばサムズアップしているくらいに最高だ。そんな俺の反応に、氷織は嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、明斗さん。こうして髪を結んだ方が競技に集中しやすいので。今日はずっとこの髪型でいようと思います」
「そうか。凄くいいと思う」
普段とは違う氷織の姿を見て、体育祭のやる気がより上がってきた。あと、火村さんもこの姿を見たら興奮するんじゃないだろうか。
氷織にお願いをして、ジャージ姿のポニーテール氷織の写真をスマホで撮らせてもらった。その後に氷織にジャージ姿の俺と、俺とのツーショット写真を撮られる。ツーショットの方はLIMEで送ってもらった。
氷織と一緒に2年2組の教室へ向かう。普段とは違う格好だからか、氷織を見てくる生徒が普段よりも多い。
教室に入ると、教室にいる生徒はみんな体操着姿やジャージ姿になっていた。その光景を見て、今日は体育祭なんだなと実感する。
服装は違っても、俺と氷織の席のところにはいつも通り、和男達4人が談笑していた。
「みんな、おはよう」
「おはようございます、みなさん」
俺達がそう声を掛けると、和男達は笑顔で朝の挨拶をしてくれる。
「あぁ、ジャージ姿でポニーテールの氷織も可愛いわぁ!」
興奮した様子でそう言うと、火村さんは氷織のことをぎゅっと抱きしめる。俺の予想を裏切らないな、彼女は。お揃いねお揃い、と自分と同じポニーテールの髪型になっていることがとても嬉しそうだ。
「今年も体育祭の日になったな! 燃えてきたぜ!」
テンション高めに、普段よりも大きな声でそう言う和男。種目決めをするときから凄く楽しそうにしていたからな。ちなみに、和男は先日行われた陸上の都大会で、100m、200m共に優勝し、南関東大会への出場が決定している。
「都大会優勝の勢いで、今年も大活躍するのを期待しているよ、和男」
「かっこいい和男君をたくさん見せてね!」
「おう! 見ててくれよ! 青チームが優勝できるように頑張るぜ!」
白い歯を見せながらニッコリ笑い、俺達にサムズアップしてくる和男。……うん、この様子なら今年も大活躍間違いなしだな。勝ちたい気持ちがあるので、和男が同じチームなのは心強い。
「いやぁ、ひおりんと倉木君がいる青チームは強そうッスね」
「そうね、沙綾。2人が味方で良かったと思っているわ」
「ふふっ。体育祭はお祭りの側面もあるので楽しむッス。でも、チーム対抗の闘いでもあるッス。青チームには負けないッスよ!」
葉月さんはとても元気良く俺達に宣戦布告をしてきた。一緒にいることの多い葉月さんだけど、今日は緑チームで敵同士。こうして「負けない!」と宣言されると、自然と士気が上がってくる。
「私達も楽しみながら、青チームの優勝を目指します。緑チームには負けませんよ」
葉月さんの親友の氷織が、俺達を代表してそう言った。葉月さんを見る氷織もいい笑顔をになっていて。親友だけどライバルって感じがして胸が熱くなる。
葉月さんは氷織を見ながら小さく頷き、
「了解ッス。では、また後でッス!」
そう言い、2年2組の教室を後にした。ちなみに、葉月さんは部活動対抗リレーとチーム別対抗の女子リレーの他に、パン食い競走にも出るそうだ。リレーについてはどちらもアンカーとのこと。足が速いので、かなりの強敵になるだろう。
それから数分ほどして、ジャージ姿の高橋先生がやってきて朝礼が行なわれる。その中で、自分達が青チームの生徒であると示すための青いハチマキが配布された。和男はさっそくハチマキを頭に巻いていた。
朝礼が終わると、俺達は青いハチマキを頭に巻き、スマホやタオル、飲み物などを持って体育祭の会場である校庭へ向かう。
「体育祭が始まりますね、明斗さん」
「そうだね、氷織。頑張ろう」
「はいっ!」
ついに、高校2年の体育祭が始まる。
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