傘を差す

とりとめのない梅雨

一日の閉じ方は今日も一様で

わたしは小さく咳をして

なんとなく家路に就く


帰る場所はたしかにあって

そこにはだれもいないけれど

帰るという所作にもっともらしさがある

わたしは家路に就き

遠い戦場のような雨音に急かされる

奇跡なんて似合わない街の

梅雨が渦を巻いている


またあした

と、いう相手も少なくなり

とりこまれたら最後らしい

廃墟の日々に生きている

蘇るすべもわからず

ただ家のありかだけがたしか


わたしはただ温もりを欲している

雨に打たれるような孤独でなく

ただ温もりを欲しているのである

たとえば薄く便りのないトタンの屋根でさえも

そこに居場所があるのなら

わたしの家である

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る