たいていの海について

あなたと交わす挨拶も

いまさら意味をもてなくて

だれも特別にはならない

平坦な場所を歩く


最寄りの駅につづく道

潮風のかすかな片すみで

かわらない朝に

どうしようもなく安堵し

すこしちがう街へ

旅する夢を思い出しもする

たとえば

赤い電車の

一両目、窓の外をながめ

または啄木の歌を思い

隔絶された美しき海をしるような

そこにだれかの幻影

波の往来

生と死

磯蟹


傾きは

常ににぶく

わたしの存在があまりに脆くて

水に濡れたこころを

抱き締めずにはいられない

せめて必要なことは

弛まない空間の虚構に

あなたの存在を思うこと

それが、幻影だとしても

あまりにやさしい


水平線でおどるひとが

きれいな渦になりながら

海辺の街をなつかしんでいる

それは十年前のリズムで

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る