親友だと思っていた少女に裏切られて婚約者をとられた私、ぶちきれたので邪神をけしかけて脅しました
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私はその瞬間ショックを受けた。
親友に話がある、と言われて相手の屋敷を訪れたら、まさかの仕打ちをうけた。
私は今まで貴族令嬢として、多少のぜいたくはしてきたものの、誰かにこんな仕打ちをされるような悪行はした事が無い。
一体、どうしてこんな事を?
私は彼女の事を、親友だと思っていたのに。
彼女は言った。
「今日はあなたにとって残念な事を言わなければならないわ。私はあの人を愛しているの。そう、あなたの婚約者をね」
「そんなっ」
そして、残酷な事実を告げたのは親友だけではなかった。
婚約者であった彼までもが、その場にやってきて、非情な現実をつきつけてきたのだ。
「すまないな。だが、彼女と会ううちに惹かれてしまったんだ。俺は君より彼女を選ぶ事にするよ」
ずっと、大切な友人だと思っていた。
それなのに、私の婚約者を盗むのね。
私の知らない間に、二人は一体何度会っていたのかしら。
きっと恋が芽生えるほど、何度もあっていたのだろう。
最愛の人の後ろに隠れた、もう親友ではない「その人物」。
彼女は私の顔を見て、さげすんだような笑いを浮かべた。
きっと、やむおえず惹かれてわけではない。彼女は悪意を持って私の婚約者を奪ったのだ。
その人物は「恋に落ちるのは当然よ。だって彼、とっても紳士でかっこよかったんですもの」と言う。
元婚約者になってしまった男性がその場を去った後、「その人物」は私にこう話しかけてきた。
「親友だと思っていたのに、って顔をしているわね。私は裏切ってないわよ。だって最初から友達なんかじゃなかったんだもの」
私は彼女を睨みつけるけれど、彼女はどこ吹く風と言った様子だ。
「だいたい、弱虫で泣き虫のあなたと誰が友達になりたがると思っていたの? 今まで一緒にいたのは、ただ引き立て役としてふさわしかったからだけよ」
元気で明るくて、誰からも好かれる親友。
けど私は根暗で、陰気。
私達は正反対の人間だったけれど、不思議と息があっていた。
きっと、親友になるべくしてなったのだと思っていたのだけれど、それは違ったのだ。
ただ、利用して、利用されていただけ。
「じゃあね。さようなら。もうあなたと友達になる利益はなさそうだもの」
私は、かつての親友に復讐しようと思った。
復讐するためには、「あの人間」が嫌がる事を考えなければならない。
私は過去の記憶をあさって、とある出来事を引っ張り出す。
それは子供の頃に、二人で仲良く絵本を読んでいた時の事。
彼女は言っていた。
「この世界のどこかには、ジャシンが封印されてるんだって? 怖いね。会いたくないな」
その恐怖は、今も彼女の中に、存在しているかもしれない。
彼女は母親から、「悪いことをしたら邪神に食べられちゃうのよ」と言い聞かせられて育った。
だから、その邪神を利用すれば、復讐を果たせるのではないかと思った。
もっと他に穏便な方法があると思うが、その時はそれが一番良い方法だと思ったのだ。
というわけで、さっそく邪神に会いに行った。
邪神がいると言われる、危険地帯を抜けて。
善は急げ、ではないけれど、私と同じような事を思った誰かに横取りされてはかなわない。
「いや、善ではないだろうし、そんな事を考えて我に会いに来るのはおそらくお前だけだろう」
しかし、苦労して会いに行った邪神は、至極まともだった。
お茶菓子を出して、もてなしてくれた。
けど訪問のわけを話したら、何か、冷や汗をかきだした。
「人間一人に復讐するために、魔物が生息する煉獄の荒野を抜けてくるとは。お前の憤怒の感情は、一体なんなのだ」
何だ、と言われても困る。
なんか、イライラしていたから道にいた魔物を力任せにぶんなぐってきただけなのだし。
そういうと、邪神はなぜか、頬をひくつかせていた。
しかしさすがは邪神。
すぐに落ち着きを取り戻す。
「まあ、いいだろう。ちょうど退屈していたことだ。お前の頼み、聞き入れてやろう」
「ありがとうございます。必ず血祭りにしてくださいね」
「血祭りとかいうな。貴族令嬢が。そこまではせん。最近我への討伐軍がうるさいからな。大義名分を与えてやる気をだされると困る」
ちぇっ。
「あははははっ、本当に今まで何も知らずに騙されていたのねっ、あの驚いた顔ったらないわ!」
間抜けな友人の事を思い出して、私は一人、笑んでいた。
あれは、馬鹿な友人だ。
利用されているとも知らずに、婚約者なんてものを人に紹介するから、私に奪われるのだ。
あれと友達でいるなんて、面倒でしかたがなかった。
引っ込み思案だから、何事も手をひいてやらなければならないし、陰気だからろくに友達も作れない。
でも、面倒見の良い女の子を演じるためには、他に適役がいなかったからしょうがない。
今まで我慢して付き合っていたけれど、これで終わりだと思うとせいせいする。
深夜、自宅の私室でくつろいでいる私は、これからの婚約者との日々を思い出して、幸せにひたっていた。
しかし、とつぜん屋敷中の明かりが消えて驚いた。
しかも、さっきまで静かだったのに、外の天気は大嵐になっていて、大きな雨粒が窓を叩いている。
雷まで鳴っていた。
何が起こったのか分からない。
あまりにも変化が急すぎた。
うろたえていると、何者かが窓を割って、室内に入ってきた。
紫の角の生えた、男性だ。
背中に翼があって、瞳が怪しい光をはなっている。
それは、子供のころに絵本に描かれていた邪神そのものだった。
「いっ、いやっ。誰か!」
私は必死になって、助けを呼んだけれど、誰も来てくれなかった。
絶望の感情で、頭の中が真っ白になる。
涙を流して顔をひきつらせながら、部屋から出ようとするが、ノブが固まったように動かなかった。
扉はぴくりともしない。
背後からゆっくりと邪神が近づいてくる。
「あっ、ああっ、助けて! お願い! 何でもするから!!」
「何でもと言ったな。その言葉に偽りはないな」
「はいっ、何でもします! だから命だけはっ!」
邪神は、部屋の物を手あたり次第に壊していった。
まるで、家具よりもろい人間なんて簡単に壊せる、とそう述べるかのように。
さらに邪神は、この世ならざる者まで召喚したようだ。
腐臭を放つ死体が、私におそいかかった。
首をしめようと、髪をひきぬこうと、肌をきりさこうとしてくる。
「ひっ、ひぃぃぃぃっ! いやぁっ!」
「死にたくなければ誓いを立てろ。お前が友にした裏切りを、公の場で明らかにし、懺悔すると」
「します! 誓いますから!」
私は内容を良く考えずに、即答していた。
とたん、呪いをかけられてしまった。
真黒な靄のようなものが、心臓のある場所へ吸い込まれていった。
それは、絵本の中の邪神が使う力の一つだった。
誓いをやぶると、心臓が止まってしまう。
「自分が言った事を忘れるなよ。では、さらばだ」
おぞましいものが体の中に入った感触で、気を失いそうになっていると、邪神の気配も亡者の気配も、ぱったりと消え失せてしまった。
夢を見ていたのかと思いそうになったが、明るくなった部屋の惨状は幻ではなかった。
翌日。
貴族令嬢フレンダは、友人に働いた裏切りを他の貴族令嬢に明らかにし、全員から軽蔑の目で見られる事になった。
その知らせを人づてに聞いたとある貴族令嬢は、かつて友人だった少女の名前をつぶやいた。
「フレンドからとって、フレンダという名前ね。由来はステキだけど、貴方の名前はもう二度と呼びたくないわ。よかったわね、そんな機会、もうないでしょうし、わざわざ気にする事でもないか。さようなら」
一人の貴族令嬢の復讐は綺麗に終わった。
ように見えるが、一個問題が残っていた。
邪神が私の手をとって、口づけてきた。
「なかなか面白い催しだったが、趣向を凝らしたので少々疲れた。我への礼があっても良いのではないか? お前は面白い。気に入ったので、屋敷に少し滞在させてもらおうか」
残った問題。協力者との今後についてだ。
親友だと思っていた少女に裏切られて婚約者をとられた私、ぶちきれたので邪神をけしかけて脅しました 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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