第8話


 はじめての友達ができたり、はじめての共犯者ができたりと慌しい日々だった。共犯者呼びしてるのは自分のなかでだけども。


 季節もついに梅雨に突入した。朝から晩まで降り続き湿気もジメジメ不快指数120パーセント、家事をする鈴宮は最近不機嫌気味だ。やはり洗濯物が乾き難くて苛立つのだろう。




 ちなみに最近は鈴宮家には行っていない。なんでも久しぶりに母が休暇で帰宅したようなのだ。


 それに伴ってお昼のおかずはしばらく辞退している、最初鈴宮は鬼の形相だったが余り物と言えどもせっかく母が帰宅しているのだからその時間で何かしてあげたり、放課後も家族団欒で過ごすべきだと主張し説得した。


 なんか係とかでまた提出物を運ぶよう鈴宮に伝えてくれと言われたがもう棚に集められてるし、鈴宮はせっかく母親が帰省しているのだが次はいつ戻るかもよくわからないとのことだった。


 それなら少しでも長く一緒に過ごすべきだ、これは代わりに僕が運んでおこう。誰にも言ってないから誰も知らずに終わるはずだ。




そして僕は仕事を片付け生来のボッチ力を発揮しこの雨でも濡れず人も来ない最高の場所を発見しそこに入り浸っている。

 何よりここは雨音がいい感じで響きとても安らぐのだ、寝てしまって授業をスッポかしてしまったほどである。



 久しぶりに時間を持て余しているのだし、いろいろやってみようかな。ガンプラとかやってみよ。



寝過ごし最後の授業から途中参加だったのだが教室のドアを開けたときの鈴宮の眼で殺すと言わんばかりの眼光はしばらく忘れられそうにない。









 自宅・夜


 着信:鈴宮玲香


 テーブルの上で震え続けるスマホを前に僕は悩んでいた。多分最後の授業までいなかったことだと思うのだが。えぇー、出たくないなぁ。もう着信音から怒気を感じる。とにかく怖い。しかし先程から鳴り止む気配がないため出ない訳にはいかない。イヤだなぁ、南無三。


 『遅い』


 「お、おう。ちょうど手元にスマホがなくてな。気づくの遅れたんだ。」


 『……ふーん。何回かメールも送ったんだけど』


 「え?いや、電話しか来てないはずで、しまった‼︎」


 『はぁ⁉︎信じらんない!ホントに無視しやがったな』


 「ひぃ」


 鈴宮の怒りは数分間続いた、ついでに今日の学校のことでもさらに怒られた、それに人の仕事がどうとか。ガッツリばれてました。その間僕は大人しく電話に向かって頭を下げ続けた。


 『ったく。……ねぇ、辰巳』


 「はい」


 『次、今日みたいなことしたら許さないから』


 「僕がそういうやり方しか知らないっていってもか?」


 『うん、関係ない。あんたはすぐバレる変な嘘ついたりするし不器用な優しさを見せたと思ったらめんどくさがってふらっといなくなったり何も考えて無いようでとても人の事を考えてるそして人の仕事をこっそり抱え込んで何も言わないあんたがイヤだ。』


 「え?なに?急にディスられてる?」


 『だから、そんなやり方をしたら思いっきりケツを蹴り上げてやる』


 「そうか。それは困ったな」


 『そうよ。だから次からはちゃんと相談して』


 「まぁ、怒られるのは、イヤだからな、善処するよ」


 『約束よ』


 「ああ」


 『うん。よろしい』


 それからしばらく通話は続いた。何故か好きな食べ物と嫌いな食べ物について強く聞き出された。ちなみにトマトとアボカドが嫌いだ。(別にアレルギーとかではない)






雨が続く翌日の昼休み。午前の授業が終わり、空気が弛緩する。購買へダッシュする男子生徒や、机をくっつけて集まっている女子のグループなどいる中、僕は今日ね昼ごはんを買い忘れたから購買に向かうため立ち上がった。


 しかし、背後から誰かに両肩を掴まれ、そのまま行き良いよく着席する羽目になった。いったい誰ぞと見上げると鈴宮が真上から覗き込んでいた。



 「え、なに?尻打ったんだけど」


 「一緒に食べよ」


 僕の言葉をスルーして、鈴宮も座り荷物を広げる。



 「すまないが、今日買い忘れたからすぐに買ってくる」


 「大丈夫。辰巳の分のお昼、用意しといたから」


 「っ!ありがとう!」


 目の前に紙袋が置かれた。渡された紙袋の中は、どうやらハンバーガーのようだ。市販の包み紙なので、鈴宮の手作りだろう。気分がすごく高揚する。

 包み紙をあけると、落ち込んだっていうか絶望したきがする。



 「あのー、鈴宮さん?」


 「んー?」


 「僕の見間違えじゃなければ具がトマトとアボカドしかないのですが」


 「美味しそうでしょ。アボカドトマトバーガー」


 「アボカドトマトバーガー………」



 バンズの中にトマトとアボカドしか挟まってねぇんだよなぁ。せめてレタスとチーズぐらい恵んでほしい。

 

 このために昨日聞いてきたのか。ほら、鈴宮めっちゃ笑顔。



 「なにこれ嫌がらせ?」


 「やだなぁ、昨日のお礼にきまってるじゃない」


 そんな良い笑顔で言われても。なに?お礼ってお礼参りの事?物騒すぎない?というか昨日の流れ的に許してくれたんじゃないのね。



 「ほらほら、遠慮しないで」


 「嫌だ、ムリだ」


 結局、笑顔で迫ってくる鈴宮に逆らう事ができず、僕はこのモンスターバーガーを平らげることになった。

口内に広がる地獄を我慢しながら、鈴宮との約束は絶対に守らねばと心に誓った。


 「今日からまたお母さん仕事でいなくなるからよろしくね」


 「…おう」



流石にそのまま今日は帰った。


 着信:知らない番号


 ふむ、間違い電話だろうか?悩んでると着信が止まったかわりにピロンとメールが届く、鈴宮からだ。


 from 鈴宮玲香



 本文:電話でろ。



 …なんで鈴宮のメールはこんなに恐怖を誘うんだろう。それに、電話も鈴宮の差し金か。スマホで電話すればいいのになぜ?そんなことを考えているとまた鳴るので今度こそでる。


 「もしもし、鈴宮?」


 『お兄ちゃん!こんばんは!』


 「香澄ちゃんか、こんばんは。どうした?」


 『お兄ちゃんあしたあいてる?』


 「おう!お兄ちゃんいつでも空いてるぞ!」


 電話の向こうから吹き出す声が聞こえた。鈴宮め、笑ってやがる。


 「なんかあるのか?」


 『うん!あしたヒーローショーがあるからいっしょにいきたいなって!』


 「いいぞー!」


 『ありがとうー!お姉ちゃんにかわるね』


 『もしもし、辰巳』


 「さっき笑っただろ…」


 『だって、あんなに元気いっぱいで言うんだもの。香澄の我儘聞いてくれてありがとね、11時からだから10時30分に駅前集合ね。』


 「ああ、別にそのぐらい我儘になんねーよ」


 『ありがとね』


 ちなみにこの番号は固定電話で一応香澄ちゃんからでもかけられるようにらしい。それからしばらく話した。


 『じゃあ明日ね。おやすみー。」


 「おやすみ」



翌日・10時20分


 少し早く着きすぎたか。…鈴宮姉妹が来たようだが何故か鈴宮が目を見開き立ち止まった。急にどうした?


 「人の顔を見るなり立ち止まってどうした?というかいつも前髪で目元とか隠れてるのによく気付いたな」


 今日の僕は髪を上げセットし服も少しオシャレしている。普段のネクラ姿でもしクラスメイトや、学校の誰かに見られ噂されたら彼女が大変なことになる。


 こんな事を言えば鈴宮は烈火の如く怒り狂いそのまま僕は焼き尽くされてしまうため口が裂けても言えない。作戦は命大事に。



 「あ、うん。辰巳の目は何度か見たことがあったから」


 目?そんな特長的な目してたっけか?


 「すごい!お兄ちゃん目きれー!すいしょうだまみたい」


 「辰巳の素顔初めて見たけど肌も綺麗で中性的な美形って感じ」


 「まぁ、自分でも外側はそれなりに整ってると思う。中身はアレだが」


 「自分でいっちゃうんだ」


 「事実だしな。とりあえず移動しよう」


 そういって僕たちは会場に移動し始める。

ところで水晶玉みたいって何?個人的に水晶玉って濁ってるイメージなんだがそれってホントに綺麗なのかな。



そんなこんなで会場に到着。思いのほか混んでいたため結構ギリギリだ。


 「鈴宮僕が飲み物とか買ってくるから先にいってて。ちなみに2人とも飲み物何がいい?」


 「今日はわざわざ付き合ってもらったんだからそのぐらい私がいく」


 「いや、このぐらい気にするなよ。むしろ香澄ちゃんについててよ。」


 「オレンジジュース!」


 「…わかった。ありがとう。私はコーラをお願い」


 「あいよー」




 売店は激混みだった。並んで注文するだけでも30分もかかった、先に行かせて本当に良かった。


 結局合流する頃には物語は佳境を迎えあっさりと終わってしまった。まぁ、香澄ちゃんが楽しそうならなんでもいいか。


僕は鈴宮達を送って行くため鈴宮家の近くまで一緒に来ていた、だがそこで急激に雨が降りだす。大慌てで走りだし鈴宮家に避難し、僕は家がその近くでもあるためまた走りだした。


風呂に入りホッカホカになってでてきたらスマホにメールが届いていた。鈴宮からだ。




 from 鈴宮玲香


 本文:今日は香澄のために付き合ってくれてありがとう。

  明日は13時に家に集合ね。



 うーん、これは提案でもお誘いでもなく通達ですねぇ。

まぁ、午後からは特に予定なかったしいいかと、鈴宮にokの返信を送る。

 



 さて、僕は今日人に会う予定がある。普段なら有り得ないことだが香澄ちゃんとアニメの話しをするためにクラスの有名なオタク2人組みとファミレスでいろいろ聞く予定だ。



今回は特にオシャレすることなく普段通りの姿だ。待ち合わせの時間に店にいくともうきていた。


 「すまない、待たせてしまった。北本きたもと坂上さかがみ


 「いやいやこちらも今きたところですぞ!」


 「そんなことよりも早速語り聞かせましょう!」


 「まずは好みのヒロインタイプランキングから!まずは第5位はツンデレだぁ!」


 ヤバイ。何がヤバイって?予想してたより数倍話についていけないし、ホントなにいってるかわからない。しかもその隣で坂上がドゥルルルとかいってるランキングのあれか?


 あまりの未知の世界に僕はパニックを起こしすぐさまスマホを取り出し電話をかける。相手はワンコールで出てくれて僕は助けを求めた。


 「鈴宮ー!僕だー!助けてくれぇー‼︎」


 『えっ!急に何どうしたの⁉︎それになんだがそっちからドラムロールみたいのが聴こえてくるんだけどホントに何が起きてるの⁉︎』


 いきなり助けを求めパニックに巻き込んでしまった、申し訳ない。


 その後なんとか無事に交流を果たし店を後にする。





 ところ変わって此処はショッピングモール。現在鈴宮と一緒にきている。


 交流会のあと時間に余裕があったのでちゃんと身なりを整え直してきた。僕は今鈴宮と衣料品をみている。これどう?とか意見求められたらどうしよう。


 まぁ、そんな色気のある展開などなく黙々と買い進めていく。これ、荷物持ちだ。



 ただ彼女の調子があまり良さそうじゃない、どことなく体がダルそうだし笑顔に陰りがある。これは早めに切り上げて休ませるべきだろう。


 「どうだ?目的の物は揃ったか?」


 「うん。お陰様で助かったわ、ありがとう。お礼に私が出すからご飯食べていきましょ。いいお店があるの」


 「いや、今日はもう帰ろう」


 「な、なんで?まだお礼も何もしてないのに…」


 「気付いてないのか知らないが相当顔色も悪く体調も良くは見えない、今日はもう帰って休むべきだ。明日からまた学校が始まる。それにお礼ならその気持ちだけで十分だ」


 「…ごめん」


 「別に謝る必要はないぞ、ほら帰ろう」




 そして僕達は一言も話すことなく帰って行った。


大分落ち込んでいたし、回復したらどうしようか。何か作ってあげようか、それともどこか遊びに行こうか、そんな事を考えながら僕は帰宅した。






 次の日、俺・は彼女にキレて怒鳴ってしまった_

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