第5話

  昼休み・教室


 外は雨が降り続いている。夏の梅雨のように長雨だがまだまだ梅雨の時期は先のためそれほどジメジメとしたものではない。と言っても雨には変わりないためいつもの校舎裏のベンチは使えない。これだから雨はきらいだ。



 これが並の孤独耐性がない人ならば空き教室や人気のないところに逃げ込むだろうが、僕は耐性がカンストしているため別に教室でも問題はない。

 文庫本に集中していたら周りはたいして気にならないし話しかけられることもない。



 「鷹宮ー。」


 と思っていたらまさかの鈴宮さんから声をかけられてしまった。昨日は特に忘れ物とかした覚えは無いのだがどうしたんだろう?


 「どうした?鈴宮さん」


 「あんたがまだ教室にいるの珍しいと思ってね。それで今日は葵含めて3人でお昼食べましょ」


 返答する前にもう机をくっつけてるし立花さんも来てしまった…


 「鷹宮君突然押しかけてごめんね」


 「いや、全然構わないよ」


 「ありがとう。それと鈴から鷹宮君の事はいろいろと聞いてるから、鈴にするみたいに砕けた言葉でいいよ。というか年上とかでもなければ最初からその方が皆も話しかけやすくなると思うよ」


 「そっか、ならこれからはそうさせてもらう」


 2人が弁当を取り出し手を合わせる。


 「「いただきます。」」


 その様子を見ながら僕も昼食の飲む栄養ゼリーを2つ取り出しそのうちの一つを一息に飲み干す。…なんか2人が唖然とこっちを見てる…なぜ?



 「鷹宮君もしかしてお昼それだけなの?」


 「あんたそれだけで足りるわけないでしょ、昼はもう少しちゃんと食べるようにしなさい。ほら、私の唐揚げあげるから」


 そう言って鈴宮さんがお箸で唐揚げを摘み僕の前に差し出してくる。


 「いや、別に僕はこれだけで大「早く食べてくれないと腕が疲れちゃうでしょ!」じょグ!」


 まだ喋ってるのに強引に押し込まれてしまった。衣はサクサクで中はジューシーで大変美味です。


 最近思うのだが彼女男らしすぎないだろうか、僕なら間接キスとか気にしてとてもそんな事できない。

 そして立花さんも


 「はい、私からも」


 タコさんウィンナーを差し出してくる。それを僕は、箸に触れないように摘んでいただく。タコさんウィンナーなんていったいいつ振りだろうか。


 「ありがとう。タコさんウィンナーなんて久しぶりですごい美味しい」


 「こちらこそそう言ってもらえるなら作ったかいがあるよ」


 「立花さん自分で弁当つくってるの?」


 「まぁ、女の子だから最低限料理はできた方がいいからその練習もかねてね。それと皆私のこと下の名前で呼ぶからそう呼んでほしいな」


 「ああ、わかったよ。葵さん」


 そこで刺さるような鋭い視線を感じ見てみると鈴宮さんがジトォーっとした鋭い目でこっちを見てる、よくわからないが普通に怖い。


 「どうした?」


 「…べつにぃ、なんでもない」


 本当にどうしたんだろう。気になるが何でもないと言ってる以上しつこく聞くべきではないだろうしな。


 そんなこんなで初めての誰かとの話しながら食べる昼休みはあっという間に終わってしまった。




 HRも終わった。今日はそのまま帰って洗濯とかしたいので鈴宮さんに予め今日来れないと伝えようと思ったがもういない。香澄ちゃんのお迎えにいったのか、とりあえずメールしておく。間をおかずに、OK、と返ってきたし帰るかと足を踏み出したところで


 「鷹宮、時間は掛けないから少しいいか?」


 名前も何も全く知らない人、多分クラスメイトに声をかけられたがすぐに済むようなのでついて行く。



 「なぁ鷹宮さ最近急に鈴宮と仲良くなってるけどさ、もしかして付き合ってるのか?」


 「付き合ってる?僕が?鈴宮さんと?それは無いよ。鈴宮さんは、学校でも有名で美人だし成績優秀友達も多くカースト制とやらでも上位だ、そんな鈴宮さんに地味でネクラの僕なんぞが釣り合うはずもない。彼女に失礼だ」


 「お、おう。じゃあ俺が告ってもいいんだな、鈴宮と付き合っても」


 「ああ、それはアンタの自由だし、受ける受けないは鈴宮さんが決める事だ。まぁ、がんばれ。僕はもう帰るよ」


 「そっか、時間を取らせてすまなかったな。」



 あれだけ気立て良くて男女に隔たりさしてもないなんてモテて当然だと改めて思う。しかしそうなると尚更鈴宮さん家に行くわけにいかないだろう、男ができたのに家に違う男が出入りしてるなんて邪魔だろし少し距離を取ろう。

 …寂しくなるなぁ…









 私の事情を知ってるのはこれまで葵だけだった。両親は共働きで放課後は妹のお迎えや料理洗濯掃除、それに食材の買い出しだとかで遊んでる暇なんてなかった。


 別にそれが嫌な訳じゃない。可愛い妹や私達の為に頑張ってる両親の助けになりたいから。ただ私も花の女子高生、そんな姿誰にも見せたくなかったし隠し通すつもりだった。


 そんな毎日を繰り返してたある日、日直だった私は今まで1度も話した事なく地味で目を覆い隠す程長い髪でネクラと有名な鷹宮と一緒にノートを物理室に届ける事になった。

 

 放課後いざノートを運ぼうとするともう棚から消えておりちょうど鷹宮が全部抱えて教室を出るところが見えた、私はすぐに追いかけ声をかける。


 鷹宮は1人で十分だと言ったが本来これは私が任せられた仕事だ、だから私はしつこく食い下がりノートの束を渡されたが半分より少ないぐらいだった。

 1人で持って行こうとするしノートは少なめに渡すし意外と優しいと思った私はそのまま彼に伝えてみたが、そんな事はないしちょっと悲しい返事が返ってきてしまった。


 じゃあ何で1人で運ぼうとしたのか聞くと自分の為だと言い逆に『鈴宮さんこそ忙しいって耳にしたけど手伝ってくれるあたり優しいんじゃない?』と返されたがそれってなんだかんだ言いながら私を気遣っての事だったてことだよね?そんなことを考えてると教室についたので予め支度を済ませた鞄を取り、出口の前で振り返り〝優しいね!〟と言い逃げした。きっと彼はこうでもしないと受けとらないだろう。


 香澄は公園で遊んで帰ると言っていたので私はスーパーに寄って今晩の食材を買って帰る。


 玄関を開けると話し声が聞こえてくる。香澄が友達でも連れきたのかな。そう思いながらリビングに入るとそこには鷹宮がいた。


 …なんでここに?ってか香澄の手とか足が!と騒いでると鷹宮が説明しサラッと帰ろうとする。がお礼をしたいと言い香澄と2人で強引に引き止める。


 それからカレーとサラダを作るが鷹宮が食器を用意し盛り付けまで手伝ってくれた。



 そのまま食事をすませ2人で食器を洗う。鷹宮がそろそろ帰ると言い出した。


 …どうしよう!というか私!普段の癖で薄着で足も部屋着用のホットパンツで太もももほぼ全部剥き出しで化粧落としてスッピンだし髪型も適当で私の全部見られたぁ‼︎


 帰ろうとする鷹宮を呼び止め口止めしようとすると先に言いふらさないと言われてしまった、悲しくなる情報と共に。


 それから彼の言葉使いのことを話し砕けた言葉を使ってくれるようになってくれた。香澄も懐いてるしやっぱり鷹宮は優しくていい奴だ。


 見た目は根暗みたいだけど話してみるとそうでもない。


 なんだか鷹宮を知って僅かだけど私の世界は彩りが変わった気がした。






 翌日からなんだか鷹宮が気になり時々視線を飛ばしてしまう。



 昼休み私は鷹宮を呼び出した。


 情けない事に香澄を理由にして鷹宮を家に誘ってしまったが気が向いたら行くとか絶対行く気がないセリフを言いやがった!


 当然私は食い下がりるが玉虫色の返事に予鈴を理由に逃げられてしまった。どうしてやろうかと考えると昨日鷹宮が卵とかいろいろ忘れていったのを思い出した。よしっこれを理由に呼び出してくれる!



 放課後まだ少し人が残っているが私はそのまま鷹宮に昨日忘れ物してたことを言い家に取りに来いとハッキリと言ってやった。 

 なんだかやらかしてしまった気がする…



 私はいま玄関で鷹宮をまっている。あのまますぐに来ていたらほぼ一緒に家についてるはずなのにまだ来ない。…強引に呼び出したけど思い返せば彼は1度もハッキリと返事しなかった、それ程嫌だったのかな?

 そんなことを考えてると鷹宮がきた。


 私は思わず来るのが嫌だったのか聞いてしまう。自分から強引に来させたのに。


 「えっ?いや、別に嫌では無いし正直めんどくさいとも思ったが昨日知り合ったばかりで連日お邪魔するのもどうかと思ったから」


 …普通女の子の家に呼ばれて気後れするならまだしもめんどくさいって、悩んでたのがバカらしくなってしまった。


 彼を家に招き入れようとするがまた逃げ出そうとするため思わず目を細めてしまうと大人しく付いてくる。

 私をなんだとおもってるのだろうか。



 昨日と同じ流れでそのまま3人で夕飯を食べる。鷹宮の顔がだんだんと暗くなっていく、どうしたのか訪ねればいきなり私のことを他の人に知られたくないだとか恥ずかしいことを言いだした。


 結局そういう意味ではなく余りにも恥ずかしくてバカ、アホとしばらく止まらなかった。


 鷹宮と関わるようになってわかった事がある。


 特にオタクというわけでもない。

 たまに悲しい事を言ったりする。

 面と向かって恥ずかしい事を言う。



 僅かな時間だがとても楽しい、鷹宮は香澄にとても懐かれ絵本読んでとか人形遊びだとかでも嫌そうな顔1つしない。子供好きなのかも知れない。他愛のない会話なのに1つひとつが楽しく思う。


 ああ、いまこの瞬間が止まってしまえばいいのに_



 今日は連絡先交換してをして終わった。明日はどうしようか考えながら眠りにつく。







 今日は朝からずっと雨が続いている。そのせいか珍しく鷹宮が昼休み教室にいる。1年の時も同じクラスだったがいつも昼休みは教室にいなかったせいか今回は余計珍しく感じる。


 せっかくいるならと葵誘って鷹宮の所に向かう。葵には鷹宮のこといろいろ話してるから大丈夫だろう。



 強引に机を繋げて3人でお昼をいただく、鷹宮は料理するみたいだしどんな弁当なのか気になり見ているとウィダーインゼリーを2つ取り出し1つそのまま飲み干す。

 余りにもなお昼だった、隣をみると葵も呆然としている。


 流石にそんなお昼だと心配になり力作の唐揚げを差し出すがまたゴチャゴチャいいだしたのでそのまま押し込む。…どうだろうか。


 葵がタコさんウィンナーを差し出すとすんなりと受け取り美味しいと言いやがった、私には何も言わなかったのに。


 葵との会話が弾み私の時よりもあっさりと仲良くなり思わず私は変な目を向けてしまう。



 そのまま昼休みは終わり残りの授業も何もなく放課後は香澄を迎えにいくためすぐに帰りご飯の準備をするが鷹宮からメールがあり今日は来れないらしい。


 今まで香澄と2人きりなんて当たり前だったのに今日はひどく寂しく思う。

鷹宮が家に来て僅か数日なのに。


 ご飯作ってる時も食べてる時も洗い物してる時もお風呂入ってる時も、鷹宮のことが頭をよぎる。


 ふとした時髪の間から見える瞳が深く綺麗な色合いだとか時々みせる微笑みが今にも消えそうな程儚げなところとか「また、明日ね」と手を振る君の姿が名残り惜しくて少し寂しかった…。








 次の日の朝、同じクラスの中村から呼び出され告白された_

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