第34話 黒翼の悪魔 2



「妙だな……」

「はい?」


 大都市、サクラメリアのはるか東にそびえる、さびれた城。

 その中で、アルトは一人呟いた。


「妙だな」

「なんで二回も言うんですか」


 アルトの付き人、ミーロは片眉を吊り上げる。


「そんなに嫌そうな顔をするんじゃないよ」

「だってアルトがこういう時は大抵ロクなことがないじゃないですか」

「まあ、魔法学園に俺の銅像が建てられてるくらいだしな! そりゃあ、この街に起きる異変は俺が解決しないとだよな!」

「すっかりいい気になってる」


 ミーロは苦虫を噛み潰したような顔で、アルトを見る。


「で、妙って、何がなんですか?」

「ああ、恐らくサクラメリアの中だと思うんだが、かなり巨大な魔力を感知したんだ」

「別に妙でも何でもなくないですか?」

「いや、それが……」


 アルトは言いよどむ。


「人の魔力じゃない」

「人の魔力じゃない?」


 ミーロは不気味そうな顔をする。


「ああ。おそらくこれは……魔物の魔力だ」

「強大な魔力を持つ魔物が街の中に潜んでるってことですか?」

「そういうことになる」


 アルトは深刻な顔をして、窓の外を見た。


「もしかして、街の中が大混乱になってるんじゃ……」

「いや、そんな魔力の流れは感じられない。恐らく、人と共生してる魔物が、街の中にいる」

「怖いですねえ」


 そう言うとミーロは階段を降りようとした。


「おいおい、どこに行こうとしてるんだ、若人よ」

「ちょっとお花を摘みに」

「お花なら外でも詰めるから、俺と一緒に行こう」

「ヤですよ! お花摘みって言葉知らないんですか!?」


 ミーロはその場で足踏みする。


「ミーロ、君はこの街が壊れてもいいのかい?」

「そんなこと思ってないですよ! 大体、毎回毎回アルトはこの世界で自由奔放に遊びすぎなんですよ! 右に問題があったら首を突っ込んで、左に困ってる人がいたら首を突っ込んで、どこかしこの問題に手出しすぎなんですよ! 私も、今回は婚期に遅れたくないんですよ! アルトが何かやりたいことがあるなら、一人でやって――」


 上空。


「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ミーロはアルトに連れられ、空高くを浮遊していた。


「よし、行くぞ!」

「もうやだあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アルトは魔力を感知した場所まで、高速で飛んで行った。



 × × ×



「はぁ、はぁ、はぁ……」

「なるほど、街の中か胡乱だったのは、ここまで外れだったからか」


 肩で息をするミーロを傍目に、アルトはサクラメリアの町はずれにある巨大な樹木を眺めていた。


「お前、いつか、殺す」

「こらこら、そんな汚い言葉使うんじゃないよ」

「大賢者様、あなたを、いつか、お殺しになりますわ」

「おお、怖い」


 ミーロは息を整え、アルトの傍に寄った。


「で、これは何なんですか?」

「なんなんだろうな。沈黙してる。魔力の根源は、間違いなくこれだ」


 アルトとミーロは遠巻きに、樹を見る。


「取り敢えず燃やしてみるか?」

「まだ何か分からないのに勝手なことしたら問題になりますよ! 大賢者様の時だって、勝手に人の魔法陣使いまくって怒られてたじゃないですか」

「そんな五百年以上も前の話……」

「時間の流れ的には五百年ですけど、実質三年も前じゃないですけどね!」

「もう、ミーロはやかましいんだから」


 アルトはてくてくと、樹に向かって歩き出した。


「これが魔物……かぁ。巨樹エントといったところか?」


 アルトは樹に触れ、こんこんと叩く。


「おーい、お前魔物だろ? なんで攻撃してこないんだー」

「危ないですよ~」


 ミーロははるか遠くから、アルトに呼びかける。


「燃やしてもいいのか~」

『…………』


 樹は、沈黙している。


雷撃サンダー


 アルトは雷の槍を手に召喚した。


「ぶっ刺してもいいのかー?」


 アルトは樹に声をかけるが、やはり沈黙している。


「じゃあ、お言葉に甘え……てっ!」

「な、何してるんですか!?」


 アルトが槍を樹に刺そうとした瞬間、声がかけられる。


「や、止めてください!」


 カゴいっぱいに薬草を詰めた少年、ノエルが、走ってやって来た。



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