第24話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 8




「よし、っと」


 街で薬草を渡してから数日、僕はこの薬草に確かな手ごたえを感じていた。


「今日も皆頑張ってね~」


 菜園に植えた植物はすぐに育つ。一日もすればもう収穫の時期とすら、言えるほどだった。


「今日から頑張るぞー!」


 僕は数日かけて身の回りを整理した。

 今日は冒険者組合ギルドにこの薬草たちを持っていこうと思う。きっと買い取ってくれるはずだ。


「皆、行ってきます!」

『キュイキュイ!』


 ナビに見送ってもらい、僕は冒険者ギルドへと向かった。



 × × ×



「すみませんが、買い取れません……」

「…………え?」


 僕は冒険者ギルドの受付嬢の人にそうきっぱりと言われてしまった。


「あの、薬草、売りたくて!」

「すみません、今は薬草はもう受け付けてないんです……」


 お姉さんは伏し目がちにそう答えた。


「そ、そんな、これが売れないと僕の生活が……」


 フィーナから貸してもらったお金もそろそろ底をつき始めている。ここで売れないとまた生活苦に陥ってしまう。


「な、なんでですか?」

「最近薬草の供給が増えていまして、ギルドとしても薬草の採取依頼、買い取りは控えるように、とのお達しなんですよ……」


 まぎれもなく、僕の責任だった。

 戦えないから薬草の採取依頼ばかり受けていたら、いつの間にか冒険者組合ギルドに必要な薬草の量を大きく超えてしまっていたようだ。


「そ、そうなんですね……」


 こうなってしまっては仕方がない。諦めよう。


「あ、で、ですが、こうやって一度来ていただきましたし、薬草の効力の検証くらいは……」

「じゃ、じゃあお願いします……」


 お金にはならないけれど、自分の育てている薬草の効能を知ることも大切だ。僕は薬草を一つお姉さんに渡した。


「薬草の効能を見るときはですね、毒素の混ぜた水につけるといいんですよ」


 僕に気を遣ってか、お姉さんは明るく振る舞う。


「ちょっと待っててくださいね」


 お姉さんが奥に消えると、しばらくして帰ってきた。


「これが、毒素を溶かした水です」


禍々しい黒紫の色をした水を、お姉さんは持ってきてくれた。透明の鉢に入ったそれは、見ただけで毒にまみれていると思えた。


「この中に薬草を入れるとですね、薬草の種類、効能によってはこの水の色が少し薄まるんですね。薬草をこの水の中に浸けて一時間すると、少しだけ水の色が薄くなってですね――」


 お姉さんは言いながらも、手際よく僕の薬草を水の中に入れる。


「あとは、このまま一時間待つだけうええぇぇぇぇぇぇえええええーーーーーーーー!?」


 僕の薬草が水に浸かった瞬間、水はまるで何もなかったかのような綺麗な透明色になった。


「な、な、なんですかこれ!? い、一体何が!?」


 お姉さんは狼狽して何度も水を覗き込む。


「た、大変だ! 通してくれ皆!」


 その時、ギルドのドアが乱雑に蹴り開けられた。


「クモリーさん!?」 

「俺の、俺の仲間が大変なんだ!」


 クモリーさんと呼ばれたその人は、体格の大きな男性を背後に担いで、必死の形相で言う。


「頼む! なんでもいい! 薬をくれ!」


 クモリーさんは、壁に寄りかかるようにして男性を下ろした。


「頼む! 金ならある! 魔法薬ポーションを!」

「は、はい!」


 ギルドの受付嬢の人たちが奥に消え、しばらくして魔法薬ポーションを持ってきた。


「おい! モルガン! 死ぬな! 飲め!」

「うっ…………」


 クモリーさんはモルガンさんに魔法薬ポーションを飲ませるが、まるで効いていない。モルガンさんは体中に無数の小さな穴が空いていて、むしろ生きていることが不思議なくらいだった。


「もう、いい……」


 モルガンさんはクモリーさんの魔法薬ポーションを払いのけた。


「俺の死期は、俺が一番分かってる……俺はもう駄目だ……生きてるのが不思議なくらいだ。すまない、ありがとうクモリー」

「モルガン! 嫌だ、死ぬな!」

「思えば、良い人生……だった。荒くれものだった俺の……人生を大きく……変えてくれたのは、お前だったな」

「止めろ! 止めてくれ! 生きろ!」


 僕はすぐさまクモリーさんに駆け寄った。


「僕にやらせてください!」

「だ、誰だお前!?」

「僕も、出来る限りのことをしたいです!」


 僕は籠から薬草を大量に取り出す。


「ふ、ふふふ…………良い子だな……」


 モルガンさんは細い目で、穏やかな目で僕を見る。


「もう駄目だ、俺は。魔法薬ポーションを使ってもまるで効かない。俺の体のことは俺が一番分かってる。ありがとう、でも駄目なんだ……」


 僕は薬草をモルガンさんの体中に張り付けた。


「思えば、本当にいい人生だった……。俺は……ここで死んでも、何も悔いは……ない。クモリー、お前を残すのだけは……心残りだが、なぁに、お前なら大丈夫……。お前はもう立派な……剣士だ……。俺がいなくても……生きていける……」


 僕は薬草を張り付けた。そして恐らく。先日の一件で、分かったことがある。

 薬草に加えて、僕の応援があれば、より効力を発揮する、ということだ。


「ああ、こんな最後になるなら、最後に……好きな女にでも愛を伝えれば良かったな……」


 そしてそれは、僕の意思によって、相手を祝福するという、意思によって発動する。


「お前だけは……助かって良かった……ぜ、クモリー」


 僕は両手の平を合わせ、祝福のポーズを取る。祝福の意思さえあれば、それでいい。掛け声も声援も、伝え方は問題ではない。

 僕は息を大きく吸った。


「ネフィタリアさん……俺はお前を、愛していたよ……。今見たらやっぱりあんた、天使みてぇ……だな……」

「わ、私ですか!?」


 会話をするモルガンさんとネフィタリアさんをよそに、


「ラーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 僕は出来るだけ高い声で、祝福の意味を込めて、声を出した。

 紫紺の光の粒子が再びギルドの中に現れる。


「な、なんだこれ!?」

「おい!? どういうことだ!? 何が起きてる!?」

「魔物!? 魔物の仕業なの!?」

「皆、ヤバいぞ! 伏せろ! 伏せろ!」


 ギルドの中が騒がしくなる。

 紫紺の光はどんどんと強さを増し、光の粒子がモルガンさんに集まってくる。


「へ……へへ、なんだこの光は……あったけぇ……神が俺を呼んでるってことか……最後にこんな光に包まれるなんて……な。神も粋なことをするじゃねぇか」

「お、おいモルガン……」


 集まった光の粒子はモルガンさんの体を即座に癒し、大量に空いていた穴はすぐさま塞がった。


「へへ……早く俺を連れて行ってくれよ、天界へと、な。こんなあったけぇ光は初めてだ。まるで天使にでもなった気分だ」

「おい、モルガン。おい」


 クモリーさんが話しかける。


「なんだよクモリー……俺はもう天界に上っていってるんだよ。お前が話しかけたって、変わらねぇよ」

「おい、だからモルガン……」

「へへ、情けねぇ顔しやがって。泣くんじゃねぇやい。お前は俺の、最高の相棒、ベストパートナーだぜ」

「おい…………」

「それにしてもネフィタリアさん、今日も可愛かったなぁ……最後にネフィタリアさんの顔が見れて俺は幸せだな」

「だから話を聞けぇ!」

「痛ぇ!」


 クモリーさんがモルガンさんの頭をはたく。


「お、お前何しやがる! 瀕死の重体に向かってなんたる……あれ?」


 モルガンさんは自分の体をぺたぺたと触る。


「あれ……?」

「お前、大分前から全快してたぞ。このお嬢ちゃんのおかげで、な」

「あ、僕男です」

「…………」

「…………」


 モルガンさんはネフィタリアさんを見る。


「え~っと……ごめんなさい、私ごつい男性タイプじゃないんです」

「は、ははは……」


 モルガンさんは引きつった笑みを見せる。


「殺してくれーーーーーーー! いっそのことひと思いに俺を殺してくれーーーーー!」

「馬鹿かモルガン!」


 モルガンさんは元気に、冒険者ギルドの中を走り出した。


「あははははは」

「全く……」

「すごいものを見てしまった……」


 僕は笑った。

 皆が皆微笑みを湛えて、温かい空気がこの場を包む。

 

 僕は人のためになれるんだ。

 確かな自信と、胸に芽生えた温かい気持ちは、ずっと大切にしようと、そう思った。




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