第14話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 6



「きゃ、きゃあぁっ!」


 どこにいたのか、キャロルが悲鳴を上げ、走ってきた。


「助けて!」

「この!」


 キャロルの背後から、花が追ってくる。メリアは花に弓を射る。


「ああああああああぁぁぁぁぁっ!」


 キャロルは悲鳴を上げ、腕が抉られた。

 

「見えなかった……」


 難が起こったのか、何も見えなかった。花の体躯が一瞬ぶれたかと思うと、途端にキャロルの腕から血が噴き出た。

 恐らくは、腕の代わりに生えている蔓を鞭のように振るわせたのだろう。だが、感知できるスピードではない。


「キャロルから離れろ!」


 メリアは弓を射出する。花に向かって一直線に進む弓に、炎がまとう。


『エエエエェェオオオォォォエェェェェッッッッ!』


 矢を射られた花は不気味なうめき声を上げながら、燃え尽きていった。


「いける……いけるよ皆!」


 メリアは拳を突き上げる。

 神速を誇る蔓とは裏腹に、防御面はまだ薄い。希望が、望みが、ある。


「皆で、皆でここを脱出しよう! 早く!」


 メリアは次の矢をつがえている。


「サニス!」

「うっせぇんだよクズ!」


 サニスは長剣を構える。


風砲ヴァン・キャノン!」


 横一線に振るわれた剣から、風の刃が射出される。


『ヴェェェェオォエェオェッッ』

『エェェェォォォオエエェェォォッッッ』

『ヴォオオオオオオオオォォ』


 刃に触れた順に体が黒く腐り、崩れ落ちていく。


「今だ!」


 サニスとメリアが道を開いた。

 行ける。今なら行ける。


「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 キャロルが一目散に、花の隙間を縫うようにして走り抜ける。


「皆も早く!」

 

 メリアが腰に佩いていた短剣を抜き、近くの花を切り裂きながらキャロルを追う。


「クレイ!」

「早くしろセレス!」


 サニスはセレスティアの首根っこを掴み、キャロルたちの後を追った。

 俺もサニスの後を追う。


「うっ!」


 蔓に肩口を抉られる。走り抜けるメリアやキャロルたちをよそに、花は俺だけを狙い続ける。


「サニス!」


 サニスが花の群れを突破する。俺は花に揉まれながらも、必死に前へ前へ、走る。


 行ける。もう少しだ。もう少しでここから抜けられる。

 肩が痛い。腕が痛い。頭が痛い。脚が痛い。腹が痛い。ありとあらゆる場所を花に抉られている。早すぎて防御することすら出来ない。血だまりに足を取られ、上手く走れない。


「サニス!」


 花の群れをまいたサニスが、振り返った。

 醜悪な顔で、笑いながら、俺を見た。


「じゃあな、クズ」

「え…………?」


 ドン、と音がした。

 

「は……?」


 俺が、サニスに蹴られた音だった。

 花の群れから突破しかけていた俺の体が、唐突に花の群れに押し戻される。


「クレイ!」


 セレスティアがサニスの制止を振りほどき、俺に手を伸ばす。

 

「セレスティア……!」


 俺も必死で手を伸ばすが、


「うっ……!」


 サニスに腹を殴られたセレスティアは、その場で昏倒した。


「サニス……なんで……」


 花に揉まれながらも、サニスに助けを求める。


「ざまぁ見ろ、無能がよぉ! 俺を馬鹿にしたツケが回ってきたんだよこのクズが!」


 サニスはその場で高笑いする。


「てめぇは囮役だろうが! 今までさんざ俺たちに迷惑かけやがってよぉ! 最後くらい囮役としてちゃんと使命果たせよなぁ!」


 サニスは懐から封のされた袋を取り出し、その封を開けた。そして俺に放ってくる。ここに来る前にサニスに渡された袋と同じものだ。


「魔物はその香に集まってくんだよ! 最後くらいは俺らの役に立てよなぁ、この役立たずが! セレスは俺がちゃんと面倒見てやるからよぉ!」


 ぎゃははは、と笑い、サニスはセレスティアを担いで、メリアたちの後を追った。


「……あ」


 花たちに囲まれる。

 ここに来る前にサニスが俺に渡したものは、魔物を集めるための香だった。最初からサニスは、俺を囮役にすることを決めていたらしい。魔物の標的を俺一人に集め、自分たちは安全圏から魔物に強襲する。今までもずっとそうしてきたんだろう。

 全てが、サニスの筋書き通りに進んでいたらしい。


 思えば、おかしいと思っていた。

 俺ばかりが魔物の標的となることに、疑問を感じていた。それもこれも、全てサニスが仕組んだ罠だった。

 元からあいつは、俺のことを仲間だとすら思っていなかったということだ。

 

『キシシシシシシシシシシシシシシシシ』


 憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


 殺してやりたい。

 今すぐあいつの下に駆け付けて、声が出なくなるまで痛めつけてやりたい。

 

『キシシシシシシシシシ』

『キシシシシシシシ』

『キシシシシ』

『キシシシシシシシシシシシシシシシ』

『キシシ』

『キシシシシシシシシシシシシシシ』


 花に、囲まれる。

 死が目前に迫ってくる。

 逃げ道がない。花の笑い声が、俺の脳内に響く。俺は小さく丸まり、必死で花からの猛攻に耐えた。耳が抉られる。腕が抉られる。脚が抉られる。肩口が、腹が、顔が、頭が、抉られる。

 ありとあらゆる場所から出血し、もはや意識すら朦朧とする。俺の体だった肉片が散らばり、血の海が出来る。

 地面が温かい。血が抜け落ち、急激に体温が下がる。



 全部、自分のせいだった。

 自分が弱いから、自分が何もできないから、自分の加護が駄目だから。俺はそんな風に言い訳をして、ずっと周りの人間に疑いをかけることを避けてきた。自分が駄目だから皆は俺に落胆するんだと、そう思っていた。


 思えば、俺は子供のころからずっとそうだった。報われない自分を恥じて、皆に良く思ってもらえるように、皆に幸せになってもらえるように、ずっと頑張ってきた。能力のない自分でも、少しは皆の役に立てるんだと、思いたかった。

 皆の役に立つようなことがしたかった。だから冒険者を志した。褒めて欲しかった。ありがとうと、感謝してほしかった。すごいね、と称賛してほしかった。君のおかげだ、と頼りにして欲しかった。

 俺はずっとずっとずっとずっと、皆の役に立とうとしてきた。皆のために頑張ってきたつもりだった。泣き言一つ言わず自分の役目を勤め上げた。自分が他人に対して疑うことなんて傲慢だと思った。


 その考えこそが、傲慢だった。

 俺は、馬鹿だった。良いように利用され、あいつらの都合の良いように扱われ、まともな報酬さえもらえなかった。服もまともにそろえることが出来ず、食事すらままならない。命を懸けて皆に奉仕しても、誰も俺のことを見てくれる人はいなかった。

 憎い。憎い。憎い。憎い。

 あいつらが、憎い。

 自分が、憎い。あんな奴らを信じて今までやって来た自分が、憎い。あんな奴らの言いなりになっていた自分が、憎い。

 人のために役に立とうと息巻いていた自分が憎い。

 

 全部が全部、俺のせいだった。

 他人のために自分を捨ててまで奉仕していた俺が、全部悪かった。

 

 俺は花に囲まれ、朦朧とする頭で、絶望に満ちていた人生を振り返っていた。

 

 

 

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