第9話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 1



 暑い。


「はぁ……はぁ……」


 俺はただ一人、森の中を歩いていた。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をする。

 腕から血がとめどなく流れ、めまいがする。


 魔物に襲われ、命からがら逃げてきた。 

 

「クレイ!」

「セレスティア……」


 味方の姿を、視認する。

 青でまとめられたその姿に、俺は確信する。


「ははっ……」


 ようやく安全圏まで逃げ切ることが出来た。ほっと安堵してしまった俺は、意識混濁に陥る。


「クレイ!? クレイ!」


 セレスティアの声が遠くなっていく。

 俺は彼女の声をどこか心地よく感じながらも、意識を手放した。



 × × ×



「おい、起きろ!」

「……」


 うるさい。

 頭ががんがんと痛む。


「おい、起きろこのクズ!」

「痛ぇっ!」


 脚に痛みを覚えた俺は、反射的に体を起こした。


「おいクズ、てめぇちゃんと森の中まで見て来たんだろうなぁ!?」

「……ああ」


 ここは外れにある魔物の棲家、大花の森ドアトール

 大都市、サクラメリアで冒険者稼業をやっていた俺は、所属する冒険者一団パーティーの仲間たちと共に、魔物退治に挑んでいた。

 

 状況を見る限り、どうやらセレスティアが、意識を失った俺を仲間の下まで運んでくれたらしい。


「てめぇは斥候くらいしか出来ねぇんだからそれくらいはちゃんとこなせよな、あぁ!?」

「…………」


 そして今まさに俺に悪態をついているのが、このパーティーのリーダー、サニス。尖った髪をバンダナでまとめ、鋭い三白眼で俺を睨んでくる。


「大丈夫、クレイ?」


 セレスティアが心配して俺に声をかけてくる。

 魔法を主力としているため、ひどく華奢で、触れれば折れてしまいそうな儚さがある。


「ああ、大丈夫だ」

「けっ、お前の腕のケガもセレスが治してくれたんだぞ。感謝しろよ、てめぇ」

「……」


 サニスに再び蹴りを入れられる。

 俺はただ無言で、その場をやり過ごすしかなかった。


「さっさと準備しろ無能が。てめぇの食い扶持を稼ぐくらい働けや」

「分かってる」

 

 俺は節々の関節の痛みを無視しながら、立ち上がった。


「お前みたいな加護無しの無能を俺たちのパーティーに入れてやってんだから、それくらい当たり前だよなぁ!?」

「ああ……」


 俺は不承不承に、頷いた。



 この世に生を受けた者は誰しも、何らかの加護を持つ。

 一目見ただけでその物の性質、特性が分かる、鑑定の加護。

 自身の体内に流れる魔力の本流を操作し、常人をはるかに上回る魔力量で、数多くの魔法を行使することが出来る、魔術師の加護。

 目をつぶって槌を振るうだけで一級の刀が出来上がる、鍛冶師の加護。

 人によってはそれが一つであったり、二つであったり、三つであったりもする。


 人は誰しもその身に加護を宿し、鑑定されることで自身の加護を知ることが出来る。

 十を超えた齢なら、一年に一度開催される大規模な祭り、妖精姫フェイリアの祭で、誰でも修道女シスターに鑑定してもらえる。


 自分の宿している加護は何なんだろうか。剣術の加護だろうか、魔法の加護だろうか、はたまた勇者の加護だったりして。そんな高揚感とともに、十の年になったあの頃の俺は、妖精姫フェイリア祭で真っ先に修道女シスターに鑑定を受けに行った。


 そして俺が受けた鑑定結果は、悲惨なものだった。

 俺が宿した加護は三つ、双方推進デュアルブースト利己主義者エゴイスト制限開放リミットブレイクという、三つのうち二つは、修道女シスターすら頭をかしげるようなものだった。


 制限開放リミットブレイクは、かつて伝説の剣聖、オルスロッド様が保持していたとも言われる、極めてレアな加護だ。自身の宿している加護の最大成長を突破することが出来る、望外の天恵。

 しかし、制限開放リミットブレイクはそれだけでは効果を発揮しない。並々ならない、尋常を超えた鍛錬の末に自身の加護の最大成長を突破するという、本人の努力研鑽を大いに必要とするものだ。

 今まで制限開放リミットブレイクの加護を宿しながらも、二つ目の加護を宿していないがために効果を発揮しない者、努力研鑽を積めず無駄になってしまった者も大勢いたらしい。 


 制限開放リミットブレイクは良い。問題は、ここからだった。

 双方推進デュアルブーストという加護も、利己主義者エゴイストという加護も、聞いたことがない、と修道女シスターは不思議そうな顔をしていた。

聞いてみれば、今まで誰にも発現したことがなかった加護らしい。内容も発動条件も、加護の内容も不明。


 俺は途方に暮れながらも、様々なことに取り組んでみた。

 木剣と鉄剣を同時に使ってみたり、盾を持って樹に突進してみたり、槌を使ってみたり、魔法を操作しようとしたりもした。

 だが、そのどれもが人並み以下で、俺の膂力は他をはるかに下回る低さだった。まるで役に立たない、塵屑。腕力も走力も体力も魔力も、全てが人並み以下。

 効果の分からない二つの加護が俺の能力を下げているんじゃないかと、修道女シスターはそう言っていた。そして十六になる今の今まで、その加護が何なのか分かることは、なかった。


 制限開放リミットブレイクを持ちながらも、意味不明な加護に振り回され、加護無しの無能だ、宝の持ち腐れだ、呪いの加護だ、とさんざ揶揄され、馬鹿にされてきた。

 だが、それでも俺は冒険者になりたかった。子供のころから夢だった冒険者に、なりたかった。皆を救い、自分の命を懸けてでも村を守る、そんな冒険者に、俺はなりたかった。


「おい無能、さっさと見て来い!」

「今行ってるだろ……」


 そしてその結果が、今のこの状況だった。実質、何の加護も持たない俺がなんとかいれてもらったこのパーティーで、俺は斥候の役回りを演じている。

 戦わず、相手の数や力量を判断し、その情報を伝える。ダンジョンの地図化マッピングや魔物の囮など、要するには、斥候とは名ばかりの、雑用係といったところだ。


 幸いと言ったところか、幼少期から視覚、聴覚、嗅覚は優れていた俺は、斥候としてでも、今の今まで生き延びることが出来た。

 この先にどれくらいの魔物がいるか、何匹の魔物が潜んでいるか、そんな細かい状況も即座に判断できるためか、ある種、斥候は俺の天職とも言えた。


「やっと帰って来たか、このクズが」

「大体分かった。中型の牙猪ファングボアが四匹、群れていた」


 俺は敵の魔物を視認し、サニスの下へと帰ってきた。


「お疲れ様、クレイ」

「ありがとう、セレスティア」

 

 セレスティアから疲労回復の治癒魔法をかけてもらう。

 セレスティアとは子供のころからの付き合いだ。

俺と違い、魔術師の加護を有しているセレスティアは、将来有望な才女だった。

 ウェイン魔法学園に行くことを勧めたが、母親の負担を少しでも減らすために、と、セレスティアは冒険者になった。


「嘘だったら承知しないからね」


 パーティーメンバーのキャロルが俺に言う。キャロルもセレスティアと同じく魔術師の加護を宿している女だ。充実した装備を纏い、右目の近くに黒子のあり、釣り目がちだ。俺たちより幾分か年が上のため、戦闘経験が豊富で逆らうことが出来ない。

 赤と白で統一された装備に、気の強さが感じられる。

 キャロルは魔物と交戦中も常にサニスにべったりで、あまり魔法を使っている所を見たことがない。


「さすが、キャロルは良いこと言うぜ」

「もう、止めてよサニス」


 サニスはキャロルの肩を抱く。


「サニス~、こんなの放っといて早く魔物退治に行こうよ~」

「ぎゃははは、違いねぇ!」


 同じくパーティーメンバーである森族エルフの少女、メリアはサニスに近寄った。

 長く尖った耳に、顔に黒い円形の模様を描いている彼女の姿形からは、清廉潔白、高潔純潔を重んじる森族エルフの性質とは、少し変わった印象を与えられる。

 艶めかしい体をくねらせるメリアを、サニスは空いた手で抱く。


「おら、行くぞてめぇらぁ!」


 そしてサニスは突貫した。

 

「おい、まだ詳しい状況が!」

「詳しい状況なんていらねぇんだよ、このクズが! この俺の実力があったらなぁ!」


 そう言ってサニスは森の中を進んでいった。

 

 




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