為す術もなく
男達が屋敷を荒らし始めてから早一時間が経とうとしていた。部屋という部屋が隅から隅まで漁られ、見るに堪えない状態になっていた。
そして今、男達はとうとう最後の部屋、二階の最奥にあるシオンの部屋の前に集まっていた。残すはこの部屋一つのみ、もうシオンを見つけたも同然と思っているのか、男達の誰もがにやにやとした薄笑いを浮かべている。
そんな男達の様子を、麗二は反吐が出るような思いで睨みつけていた。あれから何度も男達を制止しようとはしたが、見るからに屈強そうな男達に歯が立つはずもなく、麗二は何度も殴られたり床に打ちつけられたりして、今や顔も身体も傷だらけになっていた。
だが、そんな様になっても、結局自分は何もすることができなかった。麗二はもう何度目になるかわからない無力感に襲われた。
「さぁ、これで最後だ。この部屋のどこかに人魚がいる。何としてでも手に入れろ!」
尚慶がそう命じたのを合図に、男達は喚声を上げて部屋になだれ込んで行った。麗二も思わず駆け出そうとしたが、不意に誰かに腕を掴まれた。麗二が振り返ると、自分の方をじっと見つめる鳩崎の顔が目の前あった。理解と同情の混じった、それでいて諭すような目で、鳩崎は静かに首を横に振った。麗二は反発するように鳩崎を睨んだが、やがて力なく腕を下げた。もはやどうにもならないことは、麗二にもわかっていた。
「おい! 人魚はどこだ!」
その時、部屋の中から男の声が聞こえた。これまでに聞いたものとは違う、焦ったような響きがある。麗二は鳩崎と顔を見合わせると、自分達も部屋の方に向かった。
シオンの部屋に一歩足を踏み入れた途端、麗二は思わず顔をしかめた。箪笥やクローゼットの中など、ありとあらゆるところの物が乱暴に放り出され、もはやここが誰の部屋かわからない状態になっていた。しかし、その荒らされた部屋のどこにも、シオンの姿は見られなかった。
「どういうことだ! 人魚がいねぇぞ!」
「本当にここにいるのか? 逃げちまったんじゃねぇのか!?」
男達が矢庭にざわめき始めた。その騒ぎを聞きつけたのか、尚慶が部屋の中に押し入ってきた。
「人魚がいないだと!? そんなはずがあるか! どけ!」
尚慶が苛立ったように叫ぶと、男達を押しのけて自ら室内を漁り始めた。麗二にも何が起こっているのかわからず、咎めるのも忘れてただ尚慶を見つめた。
その後も尚慶は一人で部屋中を漁り続けていたが、どこにもシオンがいないことがわかると、苛立ちをぶつけるように落ちていたシオンの衣服を床に叩きつけた。そしてさっと身を翻すと、つかつかと麗二の方に近づいてきて、そのネクタイをむんずと掴んだ。
「おい小僧、あの人魚をどこへやった?」
尚慶が今までになくどすの聞いた声で尋ねた。首を絞められているような格好になり、麗二は苦しげに顔を歪めながら言った。
「知らないんだ。僕は本当に、何も……」
「とぼけるな!」尚慶がかっと目を見開いた。「てめぇ以外、誰があの娘を隠せるって言うんだ! 吐け、今すぐに吐け! さもないと……」
ようやく自分達の役割を思い出したのか、男達が麗二を取り囲むようににじり寄ってきた。鳩崎が麗二の元に駆け寄ろうとしたが、男の一人に阻まれ立ち止まった。多勢に無勢。もはやどうすることもできない。麗二は観念したように目を瞑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます