デレる理由
今回は明里視点です。こういう感じでたまに別視点を上げると思います。
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明里が家に帰ると、翔也からメッセージが送られてきた。
『急にごめんね。今時間ある?』
『大丈夫だよー』
とりあえず返信してから、カバンを近くに置いて、お気に入りのクッションの傍に座った。
何だろう? 三島君はいい人だけど、なんかいろいろ見透かされてる感じがするんだよなぁ。気を付けないと。
『吉田さんって大聖のこと好きでしょ?』
やっぱりバレてる……。しかも初手から凄いの来た。なんかこの前も気づいてた感じがしてたんだよなぁ。誤魔化せそうもないから、正直に言おうかな。
『うん』
『何で大聖のこと好きになったの?』
『大聖が公園で優しくしてくれたってだけじゃないでしょ?』
そこまでわかってるんだ。すごいなぁ。大聖君とは大違いだよ。今なら漫画のヒロインの気持ちがよくわかるよ。鈍感な人を落とすのって大変だなぁ。
『うん』
『何があったの? 嫌じゃなければ教えて欲しい』
☆ ☆ ☆
あの後、私たちは有名なファミリーレストランにお昼ごはんを食べに行った。
「自転車置いてくるから、ちょっとそこで待ってて」
「わかった」
私は歩いて学校に向かっていたが、彼は自転車で登校していたので、彼だけ駐輪場に向かった。このお店は大きな通りに面していて、平日だというのに、交通量が多い。更に今はお昼ということもあり、駐車場に入ってくる車も多く、今こうしている間にも二,三台の車が駐車場に入っていった。
「ねぇねぇ、一人?」
「俺たちと遊ぼうよ」
大学生くらいだろうか。五人の男性が私を取り囲むように現れた。
人が多い場所で、昼間からよく堂々とナンパなんてできるね。答えは一択に決まってるけど。
「ごめんなさい。人を待っているので」
「そんな奴放っといて俺たちと遊んだ方が楽しいよ」
あなたたちみたいな人と遊んで、楽しい人なんて居ると思っているの? もし、居るとしても、私にはそんな特殊な好みはない。
「だから人を待っt」
「うるせぇな。おとなしく従ってればいいんだよ」
「痛い思いしたくなければ、おとなしくしろ」
なんで? いつもならこれで終わるのに……。
怖い……。どうしよう。私が言うことを聞かないからイライラしてる。誰か助けて。
「ねぇねぇ、お兄さんら何してるの?」
駐輪場の方から大聖君が来て、私とあの人たちの間に割って入った。何故だろう。私大聖君を見たら安心してる。しかも無意識に大聖君の学ランの袖を掴んでる。
「あ? 何だガキ?」
「迷子か?」
「迷子じゃないよ。それよりお兄さんら五人で圧かけないとナンパ成功しないんだね」
「あ? うるせぇな糞ガキ」
「やんのか?」
大聖君が煽ったことで、二,三人の人が今にも殴りかかって来そうなくらいに怒ってる。そんなに煽って大聖君は、この人たちのことが怖くないの? と思ったけど、よく見ると少し震えている。怖いのに私を助けに来てくれたんだ。
「やってもいいけど、さっき友達が警察呼んだから」
五人組は『警察』という言葉に、反応していた。でも、まだ逃げ出しはしない。やっぱり無理なのかな……。
「それにこんなに交通量が多い場所で昼間から高校生をボコして、誘拐できるの?」
彼がそう言った瞬間パトカーのサイレンが鳴った。その音を聞いて、男たちは慌てて逃げていった。
「大丈夫?」
サイレンの音が止まってから、そう言って彼は私を見た。なんかいろんなところを見られている。怪我をしていないか確認してくれているのかもしれない。ちょっと恥ずかしいけど……。
「うん。ありがとう」
「そっか。ならよかった」
「もしかしてさっきのサイレンって嘘?」
「殴り合いしても勝てないからね。あいつらが単純で助かった」
彼はずっと片手をポケットにつっこんでいたから、不思議に思っていたけど、このためだったんだ。
「怖かったー。五対一とかマジでもうやりたくない」
「ごめんね。私のせいで怖い思いをさせちゃって」
何故か彼の表情が暗くなった。もしかして私と一緒に居るのが嫌になっちゃったのかな……。私が落ち込んでいると、彼は私の顔を見てから口を開いた。
「吉田さんが謝る必要はないよ。吉田さんは何も悪くないんだから。それに吉田さんの方が怖い思いをしてるんだから、俺の心配はしなくていいよ」
そう言って彼は私の頭を撫でてきた。他の人に触られるのは嫌なのに、何故か大聖君に触られるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。外だからちょっと恥ずかしいけど、もうちょっとやってもらおうかな。
「見てあのお姉ちゃん頭撫でてもらってる」
「……ご、ごめん」
ファミレスから出てきた小さい子どもに言われて、恥ずかしくなったのか、彼は頭を撫でるのを止めてしまった。ちょっと残念だけど、しょうがないよね。
「やっぱり吉田さんって凄いね。自転車を置きに行ってる間にナンパされるって」
「それって誉めてるの? 全然嬉しくないよ」
今までナンパされたことは確かにあったけど、こんなに怖い思いをしたのは初めてだった。もうナンパなんてこりごりだなぁ。
「ごめんごめん。はい、これ」
そう言って彼はスマホを差し出してきた。スマホの画面には、彼の連絡先が表示されていた。
「なにかあったら、連絡して。できるだけ早く行く。気軽に使える110番みたいな感じで考えてくれればいいから」
なんでこんなに優しくしてくれるのか不思議で、困惑していると彼の表情が暗くなった。
「俺と連絡先交換なんて嫌だよね……。ごめんね」
「違うの。そんなに甘えちゃっていいのかなって考えてたの」
「いいんじゃない? もう吉田さんは辛い思いをたくさんしてきた。それに……これからもきっとそうだと思う」
「……うん」
「だからさ、これくらい甘えたっていいんだよ。俺になら迷惑かけたっていいから。辛い思いをした分甘えていいんだよ」
「……うん。ありがとう」
今まで曇っていたが、雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。まるで自分の心を表しているようだった。
「それじゃあ、お腹減ったし中に入ろっか」
「ゴチになります」
「甘えてもいいとは言ったけど、奢るとは言ってない」
やっぱり駄目か……。まぁ奢ってもらうつもりなんてないけど。助けてくれた人に奢れなんて言えない。
「ケチ」
「ほっとけ」
☆ ☆ ☆
『こんな感じ』
『やっぱ大聖も男らしいところあるな』
『いつもおとなしいのに、急に男らしくなるからギャップで落ちちゃった。チョロいよね』
今自分で考えても、ほぼ初対面みたいな男の子を数時間で好きになっちゃうなんて、チョロいと思う。
『そうでもないと思うよ』
『何で?』
『逆になんで大聖が今までモテてこなかったのか不思議なくらいだよ』
確かにそうだね。大聖君は何で今、フリーなんだろう。何か理由でもあるのかな。
『大聖の中学校のときのことを知っておいてほしいんだけど、話してもいいかな?』
時計を見たが、まだ時間には余裕がありそうだった。まぁ最悪コンビニのお弁当でもいいんだけど。
『いいよ』
『中学校で……』
この話を聞いて、私は悲しくなった。そして、辛いのは自分だけではないんだと感じ、私も彼を助けたいと思った。
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