ラムネ瓶とビー玉

@maloneey

Memorial

 夏が来ると無性にラムネが飲みたくなる。


 普通のラムネ瓶ではなく、ビー玉で栓がしてあるラムネ。強く押すと青い空間でビー玉が転がる。昔はあのビー玉が欲しくて欲しくてたまらなかった。ラムネ瓶を割らずにビー玉をとる術が分からず、結局欲しかったあの時にビー玉は手に入らなかった。


 15歳の夏、初めて彼氏ができた。相手は、エリート中学の男子高生で、ジャニーズ似の童顔。好きなアーティストも同じで誕生日も同じで偶然にも家が近かった。祐也と仲良くなるのには時間がかからなかった。

 留学先で祐也とは出会い、帰国後に告白される形で付き合った。祐也のことが本当に好きだったかは今思うと分からない。彼氏という存在が欲しかっただけなのかもしれない。


 結局いまいち祐也のことが異性として好きなのか分からないまま、付き合いは続いた。メールや電話を毎日して、彼氏と彼女でいた。彼氏がいるということに満足や優越感を感じていただけで、燃えるような恋心はなかった。


 そんな祐也との関係を一変する事件がある日起きた。

留学先で仲良くなった、杏実の恋愛相談に乗っていた私は、杏実の好きな雄哉と仲が良かった。雄哉と杏実をくっつけようと奮闘していたが、なかなかうまくはいかなかった。そして二人には、祐也と付き合っていることをしばらく言えていなかった。理由は、祐也から口止めされていたから。雄哉とも家が近くよく遊びに誘われていたが、祐也と付き合ってから断っていた。何度も断るのに限界を感じた私は雄哉に言ってしまった。

「私、実は彼氏できたんだよね。だから二人では遊べない。」

送るとすぐに返信がきた。

「おめでとう。きっと俺と同じ名前のやつだよね。」

隠していたのにバレていたことに驚いているとさらに返信がきた。

「俺のほうが前からお前のこと好きだったよ。」

返信が出来ずにしばらく固まっていると祐也から連絡がきた。

「雄哉から、おめでとうってきた。好きだったことも言われた。だから付き合っていること言いたくなかったんだよね。」

 わたしは頭が真っ白になった。この調子で二人のどちらからもし他の留学メンバーに伝えたら間違いなく、杏実の耳に入ることになる。他の人伝いで言われるくらいなら、わたしから話そうと思い、杏実に話した。きっとこれが間違いだった。

話をきいた杏実は「そっか。」と笑っていた。


 杏実に正直に話せてほっとして矢先に、雄哉からとんでもない連絡がきた。

「祐也が杏実から紹介された女とデートしているらしいよ」

 なぜ、杏実が祐也に女の子を紹介するのかすぐに理解できなかったが、はっとした。雄哉に告白されたことを話した当てつけだ。雄哉に詳しい話を電話で聞いていると杏実から連絡がきた。


「祐也が浮気している現場を見ちゃった!別れたほうがいいよあんな男」

 自分が女の子を紹介しておいて、何をいってるんだと思い唖然とした。すべて知っていることを悟られないように適当に話を合わせて終わらせた。


 結局、最終的に祐也が選んだのは、杏実の紹介した可愛い子だった。わたしと別れた後、その子に告白するも惨敗したと杏実から聞いた。その話が耳に入ったころから、また彼から連絡がきたり家まで来られることが多くなった。適当にあしらいながら傷ついた自分がいた。


 彼と別れたことに傷ついたのではなく、他の子と自分を天秤にかけて他を選び、選んだものが手に入らなかったら戻ってきてそれを受け入れてもらえると思われている自分の価値の低さに傷ついた。


 祐也と別れた後、雄哉からは猛アタックされたものの付き合うことはしなかった。雄哉と付き合うことは、杏実と祐也に当てつけだし、そんなことに雄哉を使いたくなかった。それに、なんとなく彼氏と付き合うのではなく次はちゃんと自分が心から好きな人と付き合って燃える恋がしたかった。


 中途半端な友達でいることは雄哉にも悪いと思い、心を鬼にして連絡を無視した。1年もたつと雄哉から連絡がくることはなくなった。杏実のことも祐也と別れてからは距離を置いて、最終的には気まずくなってしまった。


 月日が流れ、大学生になったころ3人からFacebookの友達申請がきて、わたしはブロックした。自分の中で3人との関係が消化できていなかったのだと思う。


 ビー玉の入ったラムネ瓶をみると懐かしくなる。あの頃きらきら輝いて見えていたビー玉は、もうただのビー玉になってしまった。

 先週、ラムネ瓶を砕いて念願のビー玉を手に入れた。けれども、思いは満たされなかった。欲しいと思った瞬間に手に入れないと意味がないのだと知った。


 過去に手に入れなかったもの、行動しなかったもののを後から取り戻すことは難しい。あの夏の出来事もきっと違う終わり方があったと思う。いま3人との仲を修復しても意味がない。あの夏に修復するからこそ意味がある。


 今のこの瞬間しなかったことも、月日が過ぎれば後悔のつまった青いただのガラス玉なってしまうから、今日も私は青いラムネ瓶を割って輝いているビー玉を取り出す日々を生きている。


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