be full

門前払 勝無

第1話

be full


 一滴の粒がアスファルトに弾けたー。


 マミの中で何かが始まったー。

 五分後に何かが起きる。

 オレンジの電車のブラウン管から見えるのは流れるコンクリートの運河で人々の生活が目の前で川になっている。

 その川に突然現れたのは流星群。それらをよく目を凝らしてみると小さな妖精の群れであった。カゲロウなのかヘビトンボなのか…未知の生物なのか…人工物なのか…。ふと、時計を見ると五分後であった。

 マミはゾッとした。

 鳥肌が全身を覆って口はクチバシになって走る電車のドアを開けて翼を広げて飛び出した。


 夜空を流星群と共に飛び回った。小さな牧場の牛が笑っている。金色の玉がしかめっ面…。ゲラゲラと笑っているカメレオン達とクスクス微笑む小動物。


 マミはレンガ造りの大きな木に留まって東京を眺めた。耳を澄ますと鼓動が不規則なリズムを取っている。自分の鼓動でなくて、まだ出会っていない奴の鼓動が聴こえるのであった。

 自分の鼓動とはリズムが違う。

 幻想の住人が鼓動をひびかせてくるのである。


「マミさんって…感受性が豊かで、しかも、的確な判断能力も持っていて私たちなんか足元にも及ばないですよ」

カエデは思ってもない事を言っている。

「私はカエデちゃんのそう言うところが好きよ」

「あたしなんて全然ですよぉ…マミさんに一生着いていきます」

カエデはジョッキを持ちながらダサい敬礼でちゃらけている。


 エメラルドグリーンのワンピースに真珠のレックレス、太めのベルト…どっかの雑誌で見た服装…。オリジナリティーがあるから格好いいとは思わないが雑誌に載っている服を真似するのも…なんだかなぁ…。

 洒落たカフェのテラスから見えるのは無数のトミカ。洒落たカフェのテラスから見えるのは色んな猿の種類。


 休日は鳥になってあっちこっちに出掛ける。

 西に、なんだか大きな山が見えた。

 ちょっと行ってみよう。

 曇り空の中、渓谷を飛んだ。雲、霧、モヤ、水蒸気何でも良いけど白いモヤモヤが山の上に向かって進んでいくのが見えてモヤモヤが無くなると渓谷がはっきりと確認できた。コケのベッドで寝転がって休憩、イタヤさんの甘いシロップをおやつにして先に進んでいくと、何だか解らない猛禽類がいた。

「こんにちわ」

「ども」

「地元の方ですか?」

「地球産まれ日本育ちです」

「私と同じですね」

「そうですね」

「この先には何があるんですか?」

「オレにも解らない」

「一緒に行っても良いですか?」

「どぞ」

猛禽類と一緒に飛んだ。

 白い川の流れは穏やかで逆流する二人は晴れやかであった。


 しばらくして現れたのは、三段の滝であった。

 その光景は完璧である。完成形だ。全てがパーフェクトの景色であった。二人は岩に座り完璧の景色を見つめた。

 岩の配置や木の生え方、水の量や滝壺の色、御霊色…どれをとっても完璧。


 東京の雑踏の中での生活は全てがフェイクで、本物は山にあり川にある。

 生きる根源がここにある。


「ここだ!」

マミは叫んだ。

「ここからだ!」

もう一度叫んだ。

猛禽類とマミはいつの間にか人間に戻っていた。

 猛禽類だった男はマミを見て、何かをやりそうな気配を感じた。

「がんばれ!」

男も叫んだ。

「ここから頑張ります!」

マミは微笑んだ。


 五分後の未来が見えた。

 穏やかな竜巻に乗って西へと旅立つ自分が見えた。

 偽物から本物の姿を取り戻すために西に向かう旅の始まりである。

 マミは満たされている。

 始まりの前だから、イメージは滝のように完璧である。

 旅立つマミを男はガッツポーズで見送った。


 始まりはいつも期待、不安、高まる鼓動、緊張する気持ち、五感全てが満たされている。


おわり


イヤイヤ、始まり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

be full 門前払 勝無 @kaburemono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ