最果ての永久機関

はたねこ

第0話 プロローグ

 爽やかな風が髪をなびかせ、穏やかな木漏れ日が肌を照らす。地面を踏みしめる度に軽くなる身体がここはどんな場所よりも心地良いということを自覚させた。

 眼前に一直線に続く並木道はこれからの人生を表しているのだろうか。


 隣で自分の手を引く年老いた先生はこちらを見て優しく微笑みを与える。それはどんな抱擁よりも心が温まった。

 どこへ向かっているのか分からないという疑念も周囲の環境がポジティブな考え方に変換させてくれる。


「先生──」

「何も聞いてはいけないよ。分からないことは自分で考えて答えを見つけ出すんだ」


 疑問を投げ掛けようと口を開いたところを先生は優しく諭した。


「はい」

 

 ただ返事をする。そこには何の不平不満もなく、先生の言うことが全てだと信じて疑わない。

 自分はただ目的地を聞こうとしただけだった。だが先生が言うならそれは愚問なのだろう。


「明日も晴れるかな?」


 先生が純粋な目で訊ねる。


「雲の量と風の流れ、気温から察するに曇りあるいは雨でしょう。雨はお嫌いですか?」

「いいや。どんな天気でも場所によっては趣があるものだよ。ただ、明日は晴れて欲しいと思ってね」

「……そうですか」


 この時、あえてその真意を聞こうとはしなかった。

分からないことは考える。結果的に分からなくとも明日になれば必然として知ることになったからだ。

 

 だが、今考えればもっと聞いておくべきだった。

次の日には太陽と共に先生は姿を消し、十年という時が経過してしまったのだから。

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