四月二日 五百円札発行記念日

 擦り切れちまった悲しみに、岩倉具視は一人黙す。

 気軽に使用できる会いにいける貨幣アイドルとして、がま口に折りたたまれた状態で鎮座していた時代も、今は昔。利用頻度が高いばかりに世代交代を余儀なくされた彼の正体は、旧五百円


 一九五一年、四月二日に日本国民の前にお目見えしてから三十一年間、彼はひと様の財布に収まり、人の手を渡り歩くことで、その身を擦り減らし、身を粉にして経済活動に寄与してきた。


 そして一九八二年、彼は「私のことは嫌いでも日本経済のことは嫌いにならないでください」と引退を表明し、表舞台からフェードアウトした。心身ともにタフに造られた五百円硬貨に後を託して。

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