オンラインオフ会!
ゆーり。
オンラインオフ会!①
緊急事態宣言が日本で身近な言葉になってから随分経つ。 オゾン層に穴の開くオゾンホールの影響で気軽に外を歩けなくなった。
「今日も皆さん、ライブに来てくれてありがとうございました!」
ただその原因が不明なことが問題で、紫外線の照射量が強まったのか人が直射日光を浴びると深刻な火傷を負ってしまう。
特殊な傘を使い服を着込めば外出は可能だが、原因の究明と根本的な対応策が見つかるまで不要不急の外出を控えるようにと政府が呼びかけたのだ。
「たくさんのスペシャルチャットもありがとう!」
そんな自粛の中流行っているものがある。 動画配信サイトでバーチャルキャラを自身の分身とし、歌や踊り、ただの世間話からバラエティまで幅広く扱う“Vチューバ―”と呼ばれる存在だ。
「「「「今日も応援ありがとうございました! おやすみなさい!」」」」
主人公のネオもVチューバ―の一人だ。 もちろんネオというのはバーチャルキャラの名前で本名はではない。 リアルの情報は明かさないのが普通で、パソコンの前ではネオになりきって配信している。
最近は仲のいい3人のVチューバ―と一緒に配信をしていて、配信の内容はパズルゲームで有名な“ぽよぽよ”をやっていた。 いわゆるゲーム実況というものだ。
「ふぅ、今日もみんなお疲れ様ぁー!」
「お疲れー! 今日も盛り上がったなぁ」
「最後の試合は激熱だったね!」
メンバーはルイ、リト、ミナ、ネオでルイとリトは男キャラでミナとネオは女キャラである。 配信が終わると4人はプライベートの会話を始めた。 基本テンションの高い系のミナとリトが会話を進めていく。
「今年はもう集まれないんだっけ?」
「そうだなぁ。 今日は12月29日だし、明日から俺は帰省する予定があるからさ」
「俺も年末年始は忙しくなるかも」
二人の会話にルイも入っていく。 するとミナが尋ねてきた。
「ネオも一緒にゲームできなさそう?」
「あ、うん・・・。 ちょっと予定が入っているかな」
「もしかして彼氏ー?」
「え、あ、ど、どうだろう?」
「動揺しちゃってー! ネオってば可愛いー。 でもそっかぁ、今年はもう集まれないのは寂しいなぁ」
そこでミナがあることを思い付く。
「あ、そうだ! 折角だしさ、来年に新年会も兼ねて一緒にオフ会しない? このメンバーで!」
その言葉にネオはモニターの前で一人分かりやすく動揺した。 リアルで誰かといれば少々恥ずかしくなる程に椅子から転げ落ちそうになったのだが、幸い誰もいないし音も拾わなかったようだ。
慌てて椅子に座り直すと、ミナが活発な笑顔を浮かべていた。 キャラが笑っているということはリアルでも笑っているということになる。
だがいつも元気なVチューバーのリトですらミナの提案に否定的な様子だ。
「いや、緊急事態宣言が出ているから外出はまず無理だろ」
「だからネットでやるの!」
「ネットでオフ会をするのか?」
「そう! その通り! ねぇ、このメンバーでやろうよ! オンラインオフ会!」
「何か、オンとオフが混ざり合ってややこしいな」
楽しそうに話が進んでいく中ネオの心臓は破裂しそうだった。
「リトはどう? できそう?」
「1月5日以降なら大丈夫だと思うー」
「分かった! リトは大丈夫ね! ルイは?」
ルイは尋ねた。
「オフ会って、Vチューバ―の姿のままでいいの?」
「駄目に決まってんじゃん! だってオフ会だよ? ちゃんとありのままの姿を見せないと!」
「俺、そんなに自分に自信がないんだけど・・・」
「大丈夫だって! リアルとVチューバ―はギャップがあって当たり前なんだから」
「いや、そうかもだけど・・・」
ルイが拒んでいるのをネオは応援していた。 だがルイも最終的に折れてしまう。
「もちろんアタシも顔を出すよ? ルイがどんなにカッコ良くなくても否定しないって」
「・・・分かった」
ネオは冷や汗が出る。 ついにネオの番が来てしまったのだ。
「ネオも大丈夫だよね?」
「わ、私はちょっと難しいかな・・・」
「どうして? 部屋の中を見られたくないとか?」
「うん、ちょっと・・・」
「部屋の模様替えならまだできる時間あるって!」
「私も自分に自信がないから」
「顔出しは絶対だけど、どうしても無理ならマスクありでもいいよ!」
「あ、ぅ・・・」
何も返せなくなったところでミナがまとめる。 正直強引過ぎるが、ミナは普段からこんな感じなのだ。
「じゃあ決定! 日付は1月5日の21時から! 顔出しは絶対だからね!」
そう打ち合わせをしこの日は解散となった。 通話を切りネオはモニターの前で途方に暮れた。
ネオは萌え系の女Vチューバ―として活躍しているが、本名本田権三郎(ホンダゴンザブロウ)の中身は大学生の普通の男なのだ。
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