24話 クソバカ程デカい



 燃える王都をシュレイドとセレーネは見下ろしていた。


 特にセレーネは遠くを見るような目付きだ。




 「? 」




 じっとどこかを見ていたのを気付かれ、セレーネは咄嗟に作り笑いをする。




 「あ、あっちの方に昔住んでた家があったなぁってだけですわ、気にする事じゃないですのよ。」




 「……まぁ、お前がそう言うならそうするよ。」




 そう言って話を引き上げる。


 セレーネの瞳に映るそれは、俺が安易に踏み込んではいけないものに思えたから。




 頬を叩いて切り替える、どうしようもないことは、走って振り切るしかない。




 「リィリィは街のあっちに居る筈だから大丈夫だ。」




 「私とリィリィを背にして戦ってた訳ですのね。」




 「ああ、一応念のためテレパシーの魔法で連絡してみるよ。」




 「便利ですわねホント……」




 テレパシーの魔法と言ってもスマホみたいに会話できる訳じゃない。


 基本は一方通行、メッセージを送るだけの能力なのだ。




 テレパシー通話をする為には、二人ともテレパシーの魔法を覚えているか、難しい術式を使う必要があるという訳だ。だが、工夫をすれば……




 信号弾が上がった。


 ピンク色だ。




 俺の送ったテレパシーはこうだ。




 『無事かリィリィ、テレパシーの魔法で脳内に直接話しかけてる。そっち側の負担が大きいから手短に、セレーネと合流した。作戦が今の所順調ならピンク、ダメなら白、そしてピンチなら前言った通り二つ同時だ。どちらにせよ煙玉の位置に向かう。』




 って感じ。




 「あのピンクの下にリィリィが居る。合流しよう! 」




 「ですわ!(便乗)」




 セレーネを抱き抱え、屋根から屋根へジャンプ!


 最短距離で進むぜ!








 「リィリィ! 」




 セレーネの声にリィリィが気付いて顔を向けた。




 「セレーネにシュレイドさん! 」




 リィリィの傍には馬車があり、概ね作戦は順調の様だ。




 「聞いてくださいよ、天空王国四天王とかいう奴が来て大変だったんですよー! 」




 「え、お前もなのか? 」


 「もしかしてシュレイドさんも? 」


 「ああ、お互い運がねーな」


 「全くですわね。」




 三人とも渇いた笑みを溢す。




 「とっとと馬車に乗ってこんなトコからはおさらばしましょうです。」




 「そうだな」


 「ですわ!(便乗)」




 と、その時だった。




 セレーネが空を見上げ、何かを見つけて眉を顰め、ぼーっとした口調で言った。




 「なんですの、あのバカデカいの……」




 セレーネに倣ってシュレイドも空を見上げる。




 そこには—————————








 王城一階の大図書館。


 その横から2列、縦から8列の本棚をずらすと、隠し階段がある。




 隠し階段を下ると、薄暗い地下ながら、どこか風が吹く小部屋があった。




 小部屋の中心には長さ1メートル程の楔が突き刺さっており、こじんまりした部屋も相まって、どこか緊張感があった。




 王子はその楔を引き抜いた。




 だから来た、そう、絶対的なモノが……








 空を埋めるそれは山よりも大きく、末端が見えない程だった。




 そして何より、人の形をしていた。




 少し筋肉の付いた肉体を、白く揺れる布で軽く包み、緑色の長髪は風を形にしたかの様にゆらゆらと揺れている。




 「なんだあれでっけぇ……」


 「デカいですですね……」


 「ですわよねぇ……」




 呆然とはこの事、セレーネに釣られて上を見たらデカい、本当にデカい人の形があったのだから。




 まるで俺がいる世界がスノードームで、それを上から覗かれてるみたいな不快感があった。




 まぁ関係無いし、とっとととんずらしようぜなんて言おうとした時だった。




 風




 風が吹いた。


 それは風なんて形容できる程生易しいものではなく、見えない巨人に殴られたかの様な暴力。


 それこそ、上に見えるデカいやつみたいなサイズの巨人にだ。




 いとも容易く王都が半壊した。

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