23話 暗躍


 シュレイドがゴーズフレアを発動するちょっと前、つまりピスティ対シュレイドの最終局面の前、シュレイドとセレーネが話をしていた間の事。




 ピスティと王子は合流し、少しの間話をしていた。




 「王子、あのシュレイドなる者はこの国を滅ぼす程に危険です。」




 それは、大変だ。


 我が天空王国四天王のリーダー、ピスティ殿が言うのだ、そうなんだろう。




 「既に、処刑人も奴の手に落ちました。」




 「なに、あの強いだけが取り柄の変態がか? 」




 信じられない、あの強いだけが取り柄の変態が……




 「はい、王子、これは国の危機なのです。」




 「確かに危険だな、よし、そのシュレイドとかいう輩、映えある天空王国四天王にして王子の我が倒してこようではないか! 」




 国家の敵に立ち向かうのは王者の務め、父上の言葉を果たす時が来たのだ。




 「いえ、王子、御身はいずれ天空王国の未来を担う身、命を落とす危険がある戦いには向かわせられません。」




 くっ、一理あるではないか。


 セレーネは頭がとても良い、言い争うのは無駄だろう。


 時には譲るのも王者だ。




 「ふむ、ならば我は何をすれば良い? 」




 「王子には、『絶対者の楔』を引き抜いていただきたいのです。」




 絶対者のくさび……


 聞いた事があったような無かったような……


 確か父上が何か……




 「絶対者の楔はこの国に危機が起こった時、それを排除する希望の力です。そして王子、それは王家の血筋である貴方様にしか出来ない事なのです! 」




 ピスティが珍しく熱く語っている。だが……




 「楔を引き抜くだけで全て解決なんてそんなウマい話があるのか!? 」




 「いいえ、王子殿下だからこそ出来る偉業にございます。どうか……」




 ピスティが顔も見えなくなるぐらい深く頭を下げる。




 ピスティ、お主天空王国の為にそこまで……




 「よい、頭を上げよピスティ。我に任せておけ。それで、楔とやらは何処にある。」




 「王城の地下、大書庫の隠し通路から行ける地下室にございます。」




 「分かったぞ。では、行ってくる。」




 「ああ! なんて頼もしいんでしょう王子殿下! 私が貴方を天空王国四天王に推薦したのはまさにこの時、この姿を見せていただける事を確信できたからでしょう! 」




 「ふっ、悪い気はせぬが世辞はよせ。この危機、必ず乗り越えるぞ! 」




 「はいっ! 」




 我は走った。


 この愛する天空王国を救う為、走った。








 「はぁーっ、クッッッッソだりぃですわ。」




 溜息を吐く。


 壁に寄りかかり、自身のたわわな胸を適当にいじって気を紛らわせる。




 「バカみてぇに強いバカに水責めされたと思ったら、バカ王子の相手、そんでまたバカ強相手に時間稼ぎ……やってらんねー」




 タバコでもふかしたい気分だった。体に悪いから吸わないですけど。




 さて、王子は上手くやるだろうか。


 あんなバカとはいえ歳は18、ちょっと楔を引き抜くだけのガキの使いでトチりはしないだろう。




 はーそれにしてもやる気しねー。


 上からクソ強野郎と悪役令嬢が乳繰り合ってる声が聞こえてマジで不快だ。




 適当にあしらって適当にやられて、そんで雲隠れってな感じでピスティちゃんのやる事は沢山残ってるけど……




 取り敢えずキャラを戻して、ほら、ですわですわ! これ言っときゃあ国の人間なんて勝手に勘違いするんだから、ですわ。




 それではこのクソ高い建物の屋根上までひとっとジャンプですわー!








 「ゴーズフレア! 」




 バカだろお前えええええええええええええ!




 クソがっ、なんて事しやがるのコイツわぁ!




 こんな事もあろうかと、勇者と冒険した時に集めておいた秘宝を持ってなかったら即死だった……




 しかも反撃を予測してノールックでヴォルカニックスピア打ってるし!!!




 ゴーズフレアにヴォルカニックスピアとかいう超最強魔法を連発してくるクソボケ相手にするこっちの身にもなってくれよマジで……




 しゃーねぇ、そこに転がってた死体置いて何処かへ逃げるか……








 「大丈夫か? いつも冷静なお前にしては珍しく息が上がってるぞ。」




 馬車で王都から脱出するピスティがに並走して黒い影が声を掛ける。




 「ええ、大丈夫ですよドラオス。じきに風の絶対者が現れます、馬車に乗って良いですからとっととはなれますわよ。」




 「……走った方が早い。」




 「さいですか。病み上がりなのによくやりますね。」




 そして、ピスティと影は闇に消えた。

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