2話 戦いの始まりは唐突に



 「わ、私違う! ナカマチガウ!」


 俺の横では金髪が慌てていた。


 「なら名を名乗れ! 」


 「えっ、いえそれは……」


 怪しい金髪だなぁ……


 「名乗れないだと? 怪しいヤツめ!」


 「うええええええでも違うんですのよおおおおおおおおおお! 」


 喚く金髪だったが、ここは俺もドラオスと同意見だ。可愛そうだがコイツは見捨てるしかない。


 「って、言ってる場合じゃなかった! 」


 そうだよドラオスの目的は俺なんだ! 戦う?逃げる?どちらにせよ転生して早々やられる訳にはいかない。


 クソっ、逃げるか! まだ戦うのとか怖えし。


 「待て! 」

 「お゛い゛て゛か゛な゛い゛でえええええ」


 あっ、この女俺の手を掴んできやがった! ドラオスも追いかけてくるし……


 「ああもう仕方ねえ! 一緒に逃げるぞ!」

 「うええええええ」


 ドレス女を引っ張って逃げる。


 しかし右も左も分からないからすぐに追いつかれてしまった。


 「こうなったら、魔王スキルの最強魔法でぶっ倒すしかねぇ! 」


 目にも止まらぬスピードでドラオスが突っ込んでくる。


 「うらあああああああああああああ」


 当たってくれ! 魔王直伝最強魔法、ヴォルカニックスピアーーー!


 ぱすん。


 ぱすん?


 「ごええええええええええええええええ」


 何故かヴォルカニックスピアは発動せず、鳩尾にアッパーを貰う。


 物理防御魔法のお陰でほとんどダメージはないが、それでも殺し切れなかった攻撃の勢いで吹っ飛ばされた。


 ドレス女と繋いでいた手が離れる。


 世界が二、三回回って壁にぶつかって止まった。


 「クソっ、何で魔法が出なかったんだ!? ヴォルカニックスピア!ヴォルカニックスピア!」


 何度試してもぱすんという音が聞こえるだけで魔法が出ない。


 まさか俺の首を掴んで未だ離さないこの腕が原因か?

確かドラオスはあらゆる邪悪を破壊する勇者の腕と言っていた。

 俺のライトノベル知識から推測するに、魔法を無効化するアレか?幻○殺し的な……


「だ、だとしたらまずいってモンじゃねぇぞ……」


 俺の実力の九割九分九厘はソウルテイカーから受け取った、存在するあらゆる魔法を最高レベルで使える『魔王』スキルに依存する。

 それを無効化されたら俺なんて凡人以下だ。


 カタンッ! その音は、俺に悲観する時間すら残されていなかったのだと残酷に告げる。


 「天竜十文字———」


 なんか必殺技みたいなの打とうとしてらっしゃる???


 や、やばいっ! 俺は咄嗟に両手でガードした。


 ズガガガガガガガガガガ!

 おおよそ人体と人体がぶつかる音とは思えない音が辺りに響き、街を震わせた。


 「どうだっ! 」

 「やばいやばいやばい……って、あれ、死んでない? 」


 ノーダメージだった。


 まさか、物理防御魔法は残っていたのか!?

 魔法を無効化する筈の勇者の腕に未だ掴まれながらも、防御魔法は切れていない。

 つまり……


 「身体強化系の魔法は無効化されない? 」


 導き出された答えが自然と声に出て、その音を聞いた後から納得する。


 身体強化が出来るなら、やる事は一つ!


 「バフ盛りまくって物理で殴る! 」


 ドラオスが目を見開く。来るっ!


 身体強化系の魔法を使えるだけ使う。動体視力が上がり、目にも止まらぬスピードのパンチを視界に捉えた。


 昔テレビで見たボクシングのカウンターみたいに、相手のパンチをあしらいつつ俺のパンチを野郎の顔面にぶち当ててやる!


 が、俺のパンチは相手に近づくにつれてスピードが消えていき、相手の顔面に当たる頃には殆ど攻撃力が残っていなかった。


 「な、何故……? 」

 「言ったろ! 勇者の腕はあらゆる邪悪を破壊すると!」


 「まさか———」


 まさか勇者の腕は、攻撃魔法だけじゃなく、"攻撃に使われる魔法"すらも無効化するのか!?


 「そうだ、勇者の腕は魔力が魔法になった瞬間、それの攻撃性を除去する聖なる呪い。お前は俺に、いや、俺と勇者に勝てない! 」


 「———っ! 」


 いや、いやまだだ、ドラオスは俺にまともなダメージを与えられてない。このまま行っても千日手だ。


 しかし俺の縋る様な考えも瞬時に否定される。


 ドラオスが懐からナイフを引き抜いたのだ。    

 いや、正確にはナイフではない。

 剣か何かの破片に赤い布を巻き付けて使える様にしたものだ。


 「消え去れ、魔王の残骸! 」


 擬似ナイフが振り下ろされる。咄嗟に腕で身体を守るが———


 ズシャリ……

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